こころとからだの健康

芸術の秋

2025/11/01

#セルフケア

夏の暑さもようやく落ち着き、朝夕はだいぶしのぎやすくなりました。これから迎える“秋”の季節は、様々な形容詞で表現されます。食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋など多くの人に愛されているようです。
特に、筆者はこの季節になると日頃の忙しさから離れて、美術や音楽、文学などに触れたい気持ちになります。そう芸術の秋ですね。
作品世界に没入し、それ以外の刺激を遮断する。豊かな時間に身を任せることができたら素敵ですね。

現代社会は息苦しい

科学の著しい進歩とともに、現代社会は合理性や経済性を追求し、時間を短縮し、作業効率を上げ、無駄をそぎ落とすことを目指してきました。今を生きる人々は、科学こそが世界を表現する上で最も信頼に値するとか、経済的な繁栄こそが我々を幸せにしてくれるというような価値観に基づいて生活を送っています。

何をするにしても根拠を求め、なぜそれをするのか、なぜそう考えるのかという理由を見つけることに必死になります。また、効率を重視したコストパフォーマンス、タイムパフォーマンスという考え方も広がっています。

確かに、そのような考え方をベースとして、現代は発展してきました。
しかし、一旦立ち止まってみましょう。そのような生き方、ちょっとだけ息苦しくないですか？

時には、科学的な思考から離れて世界を見てみるのもよいのではないでしょうか。世の中の営みには根拠や理由がないものも沢山存在しています。
「なぜそれが好きなの？」「好きだから好きなんだよ」。芸術はそれを思い出させてくれます。

現代人の多くは論理性を重視し、こうすればこうなるということを突き詰めているようです。その考えの根本にあるものは、科学への信奉です。しかし、そもそも科学はこの世を理解する手段の一つでしかありません。

人はなぜ生まれてきたのか、人は何のために生きるのか、神はいるのか、宇宙はどこまで続いているのか。これらの問いに対しては、科学がいくら進歩しても結論が出ることはないでしょう。

他には、人と人との出会い、今いる環境との出会い、好きな芸術作品との出会い等も同様です。

好きになるのに理由は必要？
美術館を歩いていると一つの絵の前でふと足が止まり、吸い込まれるように見入ってしまう。また、テレビCMでふと流れてきた音楽が気になり、なんとなくメロディーを覚えてしまう。気づいたら鼻歌を歌っていて、あれはなんて曲なのかなとネットで調べる。こんな経験はありませんか？

作品を好きになった理由というのは、言葉で理路整然と説明することが難しいですね。確かに、あそこの部分が美しいからとか、壮大さを感じさせてくれるからとか、ここにロマンチックさを感じるから、などと言うことはできるでしょう。

しかし、その言葉は本当に心に起きた現象・体験を表しているものではありませんよね。概念化というフィルターによって本来感じていたモノ自体の手触りが失われてしまっています。心の中では言葉にならない、うまく人には説明できない豊かな体験が広がっているはずです。

好きになることにあえて理由をつける必要はないのです。むしろ分析できない、理由を説明できないような感覚を味わってみてはいかがでしょうか。

創作のすすめ
そして、芸術は他者の作った作品を味わうだけにとどまりません。
皆さん自身の表現としての芸術活動もあります。例えば、絵を描いたり、コラージュしたり、詩を作ったり、曲を作ったり。

心理学者のカール・グスタフ・ユングは心のエネルギーの源泉として、創造性の力を信じていました。夢分析や箱庭療法はこれらを促進する心理療法として有名になっています。外界の刺激に呼応するように無意識から生じたイメージを他者に伝わる形に象徴化する。そのような創作活動を通して、心のケアが可能になるといえるのです。

自分にはセンスがないとか、下手だからとか、基本を習っていないからなど、及び腰になる要因は色々あるかもしれません。
しかし、他人の評価を気にする必要はありません。人に褒めてもらったり、商品として買ってもらうために作るわけではないのです。自分の中に湧いてきたものを表現できればよいのです。

行動しなければ、いつまでもその意義を享受することはできません。これを機に、何かをクリエイトするという活動があなたにどのような体験を喚起させうるか試してみてはいかがでしょうか。そして、自分の作った作品と向き合うことで、日頃体験しえない自身の心の奥に触れてみてください。