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合理的配慮が事業者の義務になりました

2023/12/05

障害者差別解消法が改正され、令和6年4月1日から、事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が努力義務から義務になりました。
この改正により、事業者には「合理的配慮」の提供が義務化されます。

合理的配慮について改めて学びましょう

障害者差別解消法とは

障害者差別解消法は、障がいの有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障がいを理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成25年6月、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(いわゆる「障害者差別解消法」)が制定され、平成28年4月1日から施行されました。

改正法は、令和6年4月1日から施行されます。


(引用:「障害者差別解消法が変わります!令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!)

合理的配慮の歴史的背景

「合理的配慮」という言葉が世間一般に知られるようになったのは、2006年に国連総会で「障害者権利条約」が採択されたことです。条約の中で「合理的配慮を否定することは、障害を理由とする差別である」ことが明示されました。

日本も2007年に国連総会で署名し、その後、2011年に「障害者基本法」が改正となり、2012年に「障害者総合支援法」、2013年には「障害者差別解消法」「障害者雇用促進法」が成立し、「合理的配慮」の概念が浸透していきました。

こうした支援策により、民間企業に雇用されている障がい者の数は59.8万人となり、18年連続で過去最高を更新しています(令3年6月1日現在)

参考:厚生労働省 都道府県労働局・ハローワーク 障害者雇用のご案内
https://www.mhlw.go.jp/content/000767582.pdf

合理的配慮とは
「合理的配慮」とは、障がいのある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲(過重な負担)で対応することが求められるものです。

事業所で「過重な負担」があるときでも、障がいのある人に、なぜ「過重な負担」があるのか理由を説明し、別のやり方を提案することも含め、話し合い、理解を得るよう努めることが大切です。

合理的配慮の提供について
合理的配慮の提供を受けるためには、障がい者からの社会的障壁の除去についての申出が必要です。その申出に対して過重な負担のない範囲でできる対応について、障がい者と事業者が話し合いをし、解決策を見出していきます。

合理的配慮の提供は、本来の業務に付随するものに限定されます。
また、合理的配慮で求められることは、障がい者の状況や障害によって異なります。
どのような配慮が必要なのかは、個別性が高いため、個々に合わせた配慮が必要となるでしょう。


配慮について耳にするご意見の中に「障がい者だけ特別な配慮を提供されるのは不公平だ。社員はみな平等であるべきだ」という声が聞こえてくることがあります。

平等であることが公正なのでしょうか。上記の図をご覧ください。
EQUITY(公平・公正)とEQUALITY(平等)とを表しています。
図を見てお分かりいただけると思いますが、平等とは「イコール」の名詞形であり、全ての人を同じように扱うことであり、全ての人に提供されます。
合理的配慮の基本となる公平・公正とは、一人ひとりに必要なサポートを行い、個々の違いをならし、チャンスを等しく与えることです。

一般雇用の障害者の合理的配慮とは
今回の改正での大きな変化は、一般雇用であっても障害があれば、適切に配慮する義務が生じたことです。
一般雇用で採用した場合は、障害者雇用より給与面や処遇が良いケースがほとんどですから、合理的配慮の目的は、「その報酬に見合った生産性を発揮してもらうため」の配慮です。

例えば、合理的配慮を提供しても、期待に添わない結果になることもあるかと思います。そうした場合は、事実を丁寧に説明し話し合う必要があります。当該社員の状況を確認しつつ、より配慮が整う「障害者雇用」への切り替えも提案していくなど、配慮が求められます。

合理的配慮の対象者は?
障害者雇用促進法第2条第1号では、「身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、その他の心身の機能の障害があるため長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」とされています。

障害となった原因や種類、障害者手帳の有無にかかわらず、その障害により長期にわたり就業生活に制限があったり、就業生活が著しく困難を感じている人であれば、合理的配慮の対象となります。
著しい困難がなく、障害の程度が軽微な人や、一時的な怪我や病気などにより職業生活に制限を受けている人は対象外ですから、個々の困難の程度を見極め、提供の対象となるか精査することが求められます。

担当者が避けるべき態度の例として

「これまで社内でこのような先例がありません」
→ 障害者差別解消法が施行されており、自社に先例がないことを理由として拒絶する態度はあってはなりません。

「あなただけに特別扱いできません」
→ 合理的配慮は、公正に対処することです。特別扱いではなく、障害のある人もない人も同じようにできる状況を整えることが目的です。

「もし何かあったら……」
→ 担当者自身の不安や漠然としたリスクでは断る理由になりません。実際にどのようなリスクが生じる可能性があるのか、それはどのようなタイミング、状況なのか、そのリスク低減のためにどのような対応ができるのか、具体的に検討する必要があります。

「その障害種別ならば、○○すべき」「前回の人は○○でしたよ」
→ 同じ障害種別でもその障がいの程度などによって、それぞれ適切な配慮が異なりますので、「過去の前例ではこうだった」「一般的には○○だろう」と一括りにしないで丁寧に検討する必要があります。
(参考:内閣府 障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイトより)

 

合理的配慮例

合理的配慮の一例を障害種別で少し挙げてみましょう。

視覚障害
・出勤・退社時の混雑を避けるためのフレックスタイムの活用、時差通勤
・意思を伝えあうために絵や写真のカードやタブレット端末等の活用
・移動の支障になる物を通路等に置かない
・机の配置や打ち合わせ場所の工夫をし、移動に配慮する
・声掛けの際には、まず自分の名前を名乗り誰なのかを明確にする

肢体不自由
・車椅子使用の際、幅の確保、移動の支障になる物を通路等に置かない
・段差がある場合に、スロープなどを使用し補助する
・移動頻度の少ない業務や就業場所への配慮
・定期通院日のサポート
・急な体調不良時のサポート体制と連携

精神障害
・本人の同意の下、障害特性を共有し理解の促進を図る
・静かに休憩できる場の確保
・休憩取得の声掛け
・分かり易い業務指示
・障害特性に合わせた無理のない業務の配分

発達障害
・本人の同意の下、障害特性を共有し理解の促進を図る
・急な予定変更を避ける
・作業手順を分かりやすくマニュアル化
・業務は可能な限り細分化し、指示は一つずつ出すなど
・音や光に敏感な従業員に対して、イヤーマフやノイズキャンセリングホンやパーテーションの使用

合理的配慮は事業者が行う義務であるとお伝えしてきました。
個々にあった配慮を提供することは、差別を取り除く意識の醸成であり、定着率の向上、活躍の場の提供、生産性の向上といった効果につながります。

合理的配慮の提供は、障がい者とよく話し合い、何が必要なのか、それは現実的な申し出なのか、代替案は出せるのか、など意向を十分尊重しながら、事業者にとって過重な負担にならない範囲で合理的配慮を提供していきましょう。

合理的配慮を提供する際には、周囲の従業員に対しても説明を行い、理解を得ることが大切です。当該社員の同意の下、障害特性の共有や合理的配慮の内容を説明します。

双方が気持ちよく働ける職場環境づくりを目指しましょう。

 

参考:障害者雇用のご案内~共に働くを当たり前に~
https://www.mhlw.go.jp/content/000767582.pdf
内閣府 「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai_leaflet-r05.html
内閣府 障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト 合理的配慮の提供
https://shougaisha-sabetukaishou.go.jp/goritekihairyo/

 

筆者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師

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