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12月は「ハラスメント撲滅月間」であり、12月4日から10日は「世界人権週間」です

2023/11/15
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12月4日~12月10日は「第74回人権週間」(法務省)です。世界人権宣言が採択された日である12月10日は「人権デー」と定められています。
また、12月は厚生労働省が定めた「ハラスメント撲滅月間」であり、厚生労働省は、ハラスメント撲滅に向け、集中的な広報、啓発活動を実施します。

いじめや嫌がらせは人の尊厳や権利を脅かす
卑劣な行為であり、弱い者いじめです

ハラスメントの法改正について
厚生労働省は、パワハラ防止法改正を行い、2020年6月から大企業、2022年4月から中小企業にもパワハラ防止措置を事業主に対して義務化としました。
法改正は、随時行われています。

①パワーハラスメント
⇒「労働施策総合推進法」
(パワハラ防止法2022.4.1より中小企業も義務化)

②セクシャルハラスメント
⇒セクシャルハラスメント等の防止対策の強化
【男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法】
(施行期日2020年年6月)

③妊娠・出産に関するハラスメント
⇒(2022年より随時改正を実施し公表)
「男女雇用機会均等法および育児・介護休業法」
介護に関するハラスメントも含まれる

これらの法律は企業の対策を強化することが目的であり、刑罰を定めたものではありません。2019年6月に国際労働機関がハラスメント禁止条約を採択し、国際的な潮流に合わせたものになります。

パワーハラスメント(パワハラ)について

これまで明確な定義がなかったパワーハラスメントですが、法改正により、初めて根拠規定が設けられました。ぜひ覚えておきましょう。

パワハラを定義する3つの構成要素
職場において行われる
優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われる言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③労働者の就業環境を害されるもの
この①~③までの要素をすべて満たすもの
(労働施策総合推進法第30条の2)

パワハラ行為類型について
厚労省は、パワハラを6つの類型に分けて説明しています。令和2年度調査で発生頻度の多かったものから挙げてみます。

グレーゾーンを考える
精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、身体的な攻撃の3つは、明らかに業務には必要のないものです。こうした言動は、弱い者いじめ、嫌がらせであり、行為者の感情統制力の未熟さ、思いやりの低さ、自己中心性の高さを示すものであることを忘れてはなりません。
一方で、過大な要求、過小な要求、個の侵害は、グレーゾーンと言われる判断の難しい
事象となることがあります。

“成長を期待する部下に対して、難しい課題や負荷の高い仕事を指示した”
⇒「過大な要求」に当たるでしょうか?
“体調が悪く見えた後輩に配慮し、仕事を減らし帰宅を促した”
⇒「過小な要求」に当たるでしょうか?
“「おめでた」を雑談で耳にしたので、配慮するよう部内でメンバーと共有した”
⇒「個の侵害」に当たるでしょうか?

ご相談をお受けしていて気が付くのは、「相手の方と話し合い、同意が取れていましたか?」「相手の方の希望だったのでしょうか?」というポイントがしっかり確認できていないという点です。

行為者の言い分は、大概「良かれと思って」「相手のためを考えて」です。こうした善意の押し付けは行為者の価値観、思い込みであり、“相手の価値観に添わないことがある”という視点が少ないことで、誤解や軋轢が生じてしまいます。

相手の意思や感情を尊重するコミュニケーションを身に付けることがパワハラ予防には大切です。

カスタマーハラスメント(カスハラ)について

厚労省は行政指針で、「顧客等からの著しい迷惑行為」への対策も行うことが望ましいとし、2022年2月25日にマニュアルを公表し、カスハラ対策を企業に対して求めています。

望ましい取り組みとして
1.相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
2.被害者の配慮のための取組
3.他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組
を挙げています。
(「カスタマ―ハラスメント対策企業マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf

カスハラ行為類型

カスハラは、サービス業は勿論、取引先、関係会社、下請企業などあらゆる関係性の中で発生します。

売り手と買い手、取引において生じるパワーバランスが優越性を生み、立場の弱い者に向けて理不尽な要求、迷惑行為が行われます。
カスハラの被害者の多くが立場の弱さから我慢を強いられ、ひたすら謝罪し、迷惑行為に耐える。そんな姿を目撃された方も少なくないのではないでしょうか。

カスハラの被害は深刻

サービスやスキル向上を目的とする適正クレームを理解した上で、悪意で過剰なクレーム、すなわちカスハラに対する対応をすみ分け、企業は労働者を守るために必要な措置を取らねばなりません。

対策ができている組織において、その対策効果が調査から明らかになっています。

対策の効果
厚労省が公表したカスハラ対策で推奨されている、研修の実施、マニュアルの作成、相談窓口の設置などを行った企業の労働者が、未実施の企業の労働者に比べ、被害の大きさに大きな差が出ていることが連合の調査で明らかになりました


(出典:連合JTUC カスタマ―・ハラスメントに関する調査2022)

被害の拡大を予防するために、ぜひ、こうした対策に取り組んでいただけたらと思います。

セクシャルハラスメントについて

発生頻度はパワーハラスメント、カスタマーハラスメントよりも低いものの、3番目に多いハラスメントがセクハラです。

厚生労働省が公表したセクハラ被害の実態調査をご覧ください。


(令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 報告書 77頁)

性的な冗談やからかいの被害は男女ともに半数近くであり、性的な言動に対して拒否した際の報復行為については男性被害が女性を大きく上回っていることが分かります。

常識のアップデートが鍵
企業訪問で実際にお話を伺うと、セクハラの行為については、世代間の認識の違いが大きいのでは?と感じることが多く、年齢が高い世代のアンコンシャス・バイアスの影響があるようです。

「最近綺麗になったんじゃない?」「痩せたね」「可愛いね」など容姿をあげつらったり、「彼氏いるの?」「彼女いるの?」「モテるでしょ」など交友関係を根掘り葉掘り詮索したりからかう。
「隣においで」など懇親会の席で女性社員を隣に座らせる。
「○○ちゃん!」など名前で呼ぶ。

こうした言動について行為者の言い分で多いのが「悪気はなかった」「今まではOKだった」「親しみを込めただけ」「普通の会話でいけないと思わなかった」です。

個の尊重に対する意識の理解不足であり、時代で変化した常識へのアップデートが成されていないことが分かります。

セクハラの判定基準は、個々の主観は大切にしつつも、一般的で平均的な女性労働者の感じ方、一般的で平均的な男性労働者の感じ方で判定されますから、この一般的、平均的な感覚が今の時代に添わないでいるとセクハラと判定されることを改めて認識することが肝要です。
啓発活動、ハラスメント予防教育で認識不足を改める必要があるでしょう。

 

SOGIハラスメントについて

厚生労働省は、2020年6月に行った改正で「性的指向や性自認に関する偏見からの発言(SOGIハラスメント)」がパワハラ防止指針、セクハラ防止指針において、ハラスメント行為に当たりうる旨を明記しました。この法律により職場での防止措置を取ることは事業主の義務となりました。

労災認定においても「SOGIに関する侮辱的な言動」がパワハラに当たるとし、社内規定の整備、相談窓口の設置、窓口の適切な対応等が義務付けられました。

SOGIとは
性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字を取った略称で、SOGI(ソギ/ソジ)と呼びます。

SOGIはLGBTを包括する概念であり、全ての人の性別に対するアイデンティティであり、性愛の対象がどのような性に向いているか、あるいは向いていないかの「性的指向」、自己の性別をどのように認識しているかの「性自認」を指しています。

マジョリティとマイノリティ
生まれたときの戸籍に記される性別と自認する性が一致しており(シスジェンダー)、性的指向が異性を対象とする(ヘテロセクシャル)人たちをマジョリティ(多数派)と呼びます。

一方で、少数派である性的マイノリティ(少数派)LGBTの人たちは、人口の10%前後おられると言われ、その割合は左利き人口とほぼ同じと言われています。

LGBTとは
LGBTは「セクシャルマイノリティの総称」として使用され、4つの頭文字から構成されています。

・レズビアン(Lesbian)
⇒性自認が女性であり、性的指向が女性に向いているセクシャリティ
・ゲイ(Gay)
⇒性自認が男性であり、性的指向が男性に向いているセクシャリティ
・バイセクシュアル(Bisexual)
⇒性的指向が男性・女性に向いているセクシャリティ
・トランスジェンダー(Transgender)
⇒身体的な性が性自認と一致せず、違和を感じているセクシャリティ

・上記のLGBTだけではなくQ(クエスチョニングQuestioning/クィアQueer)のセクシャリティもあります。

クィアとは性的少数派全般、クエスチョニングとは自分の性別や性的指向を探している状態の人です。セクシャリティはとても多様であり、変化することもあります。
自分のセクシャリティをどう規定するかは、幅広い選択肢と組み合わせからなるため、「性のあり方はグラデーション」と表現されます。

カミングアウトとアウティング
カミングアウトとは、性的マイノリティの当事者が、自身の性的指向や性自認について他者に伝えること。

アウティング(outing)とは、本人の同意なく、その人の性的指向や性自認に関する情報を第三者に暴露する行為です。

本人の意思に反してセクシャリティが第三者に知られてしまうと就業環境が害されたり、職業生活を送ることが困難になる可能性があります。
 

アウティングが深刻な社会問題に
宝塚大学看護学部(社会疫学)の日高教授が10代から70代約1万人の性的マイノリティ当事者を対象に実施した意識調査委によると、全体の25%がアウティングの被害を経験していることが分かりました。

「アウティング禁止条例」については、国に先んじて人権擁護に取り組む自治体が増加し、現時点で少なくとも12都府県で26自治体が条例で明記し、3年間で約5倍に増えています。

こうした時代の流れを理解し、企業においてもアウティング被害の防止に取り組むことが急務となっています。

SOGIハラの言動例
・差別的な言動、嘲笑、差別的な呼称
⇒オカマ、おとこオンナ、おねえ、レズ、オナベ、ホモ、ニューハーフ
などの蔑称など

・いじめ、仲間外し、暴力
⇒自分もゲイだと思われたくないから仲間はずれにする
「そばに来るなよ」など肩を小突かれた

・望まない性別での生活の強要
⇒「男のクセにメソメソするな」「女性なのにメイクしないの?」
「結婚して子を持つのは当たり前でしょ」「トイレは○○用を使え」など

・不当な異動や解雇
⇒性的違和のある労働者に対して女性の服装をしないよう強制したり、出勤停止を命じるなど

・アウティング
⇒本人の同意なしに個人情報を暴露する

SOGIハラを予防する
上記のように、SOGIハラスメントやアウティング等を念頭にパワハラ防止措置義務を適切に履行するためには、「性的指向、性自認とは何か?」についての基本的な知識を全ての労働者が得ることが重要です。

SOGIの認知度は、LGBTの認知度と比べても極めて低く、正しい知識や教育が急務です。

(厚生労働省 令和元年度 厚生労働省委託事業 職場におけるダイバーシティ推進事業 報告書調査結果より、筆者がグラフを作成)

SOGIの認知度は、わずか2% 98%の人が意味を知らないと回答

妊娠出産に関するハラスメント

状態への嫌がらせ型
女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、その他の妊娠または出産に関することに関し、女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いを行う行為を指します。

男女雇用機会均等法第9条3項により、正規労働者、パート、アルバイト労働者も対象となります。

例えば、このような発言を耳にしたことはありませんか?
「人手が足りないのに妊娠するなんて、本当に困る」
「妊婦は当てにならないから、大事な仕事は任せられない」
「やっと育休から戻ってきたと思ったら、また?」

こうした心無い発言は、当事者を苦しめ、就業意欲を低下させたり、メンタルヘルスへの悪影響がでてしまったり、本意ではない退職に追いやられてしまうケースに発展することがあります。

制度利用への嫌がらせ型
労働者が育児休業の申出をし、または育児休業をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをする行為を指します。

育児介護休業法第10条により、育児休業の他、介護休業・休暇なども含まれます。

「産後パパ育休(出生時育児休業)」は、
男性が子供の出生日から8週間以内に、最長4週間の育休を取れる制度です。

例えば
「妻の出産が早まり、昨日第一子が誕生しました!来週から産後育休を取得したいのですが…」と部下が申請をしたときに
「この繁忙期に何を言っているんだ!無理に決まっているだろう」などの発言があると、制度利用へのハラスメントの可能性が生じます。

厚生労働省は、企業で働く育児休業の取得率を現在の17.13%(令和4年度雇用均等基本調査)から2025年までに50%とする目標を掲げています。

しかし、産業により取得率には大きく差があります。
金融・保険業では、37.28%の高取得率であるのに対し、卸売り・小売業では8.42%、宿泊業・飲食サービス業では9.06%と差が大きく、企業の規模が大きいほど取得率が高い傾向にあることが分かりました。

連合が実施した「仕事と育児の両立支援制度に関する意識・実態調査2023」によると、取得率が上がらない理由として、「取得できる職場環境でなかった」「収入を減らしたくない」「制度があるのを知らなかった」などが挙げられており、経済的理由に加え、人手不足や制度そのものの周知不足も取得率が上がらない要因となっています。

厚生労働省は、「男性の育休取得の機運は一定程度、醸成されてきたが、女性に比べると低い水準だ。あらゆる政策を動員して、男性が希望どおり育休を取得できるよう進め、男女ともに仕事と育児を両立できる環境づくりを進めていきたい」としています。

ハラスメント予防対策

厚生労働省は、「パワーハラスメント対策導入マニュアル」第4版で、
「予防対策で最も一般的で効果が大きいと考えられる方法が、教育のための研修の実施です。研修は可能な限り対象者全員に受講させ、定期的に繰り返して実施するとより効果があります。」としています。

研修は、管理監督者向けと一般従業員向けで分けて実施すると効果的であるとしながら、企業規模が小さい状況によっては、区分けせずに行うことも考えられるとしています。

カスハラやSOGIハラの項目でも解説を行いましたが、ハラスメントは知識を得ること、「分かることで変わる」ことができます。企業はハラスメントに関する労働者の知識向上を目指しましょう。

ハラスメントの発生は、労働者のメンタルヘルスに影響を及ぼします。ハラスメントを受けることで意欲の低下や自己肯定感の低下が生じ、こころの健康が悪化します。また、仕事をするモチベーションが下がり生産性が低下するだけではなく、離職や風評被害など組織の経営にも悪影響を及ぼします。

「ハラスメントは決して許さない」と会社全体の問題として取り組むことが何より大切です。

 

参考:厚生労働省「明るい職場応援団」https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
京都府「性の多様性と人権」
厚生労働省 令和元年度 厚生労働省委託事業 職場におけるダイバーシティ推進事業 報告書調査
令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 報告書

筆者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師

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