こころとからだの健康

感謝するということの効果と意味

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日頃、皆さまは「感謝」「ありがとう」の気持ちを周囲の人に伝えていますか?
「感謝」は社会的な感情です。人間関係を強化する感情であり、社会的利点として大切にすべき感情と言えます。
今回のコラムでは、改めて「感謝」について考えていきます。

感謝は何の役に立つのか

感謝の気持ちは日々の生活に変革的な影響を与える
「感謝」研究の第一人者である米国カリフォルニア大学ディビス校ロバート・エモンズ教授は、「感謝日記」を継続的に実施している1000人以上を対象に調査を行いました。
教授は、感謝により以下のような変容がみられたことを報告しています。

身体的な効能として、免疫力の向上、痛みの軽減、血圧の低下などがあり、心理的効能として、ポジティブ感情の高まり、楽天性や幸福感の高まりなどが挙げられます。
さらに社会的効能として、他者を助け寛容で慈悲深くなる、孤立感や孤独感の軽減、外向性の向上などの変容が見られました。
【参考:「感謝」の心理学―心理学者がすすめる「感謝する自分」を育む21日間プログラム ロバート・A・エモンズ著/中村浩史訳 産能能率大学出版部】

感謝することで、幸福感も高まり気分や身体、人間関係にポジティブな影響があるのですね。

幸福ホルモンの分泌も増加
脳科学的な研究も進み、感謝の気持ちを持つ人は、幸福ホルモンと呼ばれている脳内物質である、セロトニン、オキシトシン、ドーパミン、エンドルフィンなど脳とからだ に良い作用を与えるホルモンの分泌が盛んになることを明らかにしています。

心理学者アレックス・ウッドによる 2008 年の研究を含む最近の研究によると、「感謝すること」でうつ病のエピソードの頻度と期間が減少する可能性があることが示唆されました。
さらに感謝の度合いとうつの度合いを調べた研究(Tulbure,B.T. (2015))でも、感謝とうつには相関関係があるという結果を示しています。

感謝の気持ち、感情が脳への良い影響をこのように与えてくれ、さらにネガティブな感情を軽減してくれることが脳科学で証明されているのです。

感謝には種類がある

「Doing」と「Being」
米国・カリフォルニア大学リバーサイド校、アルメンタ博士の研究チームは、感謝を2つの種類に分け、それぞれがもたらす効果や定義を明らかにしました。
(ポジティブな感情の機能:自己改善と前向きな変化の動機としての感謝 ChristinaN.Armenta)

一つ目は、自分にとってハッピーなことが起きたとき、親切にされたとき、助けられたときなど他者からもたらされる「Doing」に対しての反応です。
皆さまも「優しくしてもらえた」「助けてもらえた」ことで、「ありがとう」という気持ちが想起された体験をいくつか思い出されることでしょう。
こうした感謝は、自分自身にもたらされたDoing体験に基づくので自分中心と言えます。

二つ目は、「今ここ」にある自分を囲んでいる、形のあるもの、形のないもの、すべてのことに対して感じる感謝「Being」です。
それは、温かな日差し、心地よい風、気持ちよく目覚めた瞬間、無事に一日を終えられたこと、美味しく頂けた食事、楽しかった会話、鳥の声など へ対する感謝の気持ちです。

こうした感謝の感情は、「今ここ」に生きることに対して満足ができ、日々の営みに対して充足感をもたらします。
前向きな気持ちをサポートし、落ち込む時間を軽減することにより、あなたのレジリエンス(復元力)を高めてくれます。

感謝は生産性にも影響している

Beingの感謝の気持ちが常態化していると、幸福な気持ちが得られます。
感謝の気持ちを持った従業員は、より効率的で、より生産的で、より責任感が強くなります。職場での感謝の気持ちを表現することは、対人関係の絆を築き、親近感や絆を深めるための積極的な行動です。 (Algoe, 2012)

感情の回復(レジリエンス)について ~苦痛から立ち直る~

回復力の要素に「感謝」がプラス
これまで多くの心理学者がレジリエンス研究を行い、感情的な回復の要素を示してきました。
感謝の気持ちを持つ人は、逆境や苦境に立たされた時の回復がそうでない人に比べて早いことが証明されています。
エモンズ教授は、感謝の気持ちがポジティブに働き、逆境や苦境に対する受け止め方に影響し、回復に違いが出てきているのではないかと分析をしています。
さらに、ダメ出しばかりをしていたり、自責が常態化している人と幸せな気持ちで作業を行っている人では、生産性に差が出ることが分かっています。

感謝は相互作用 伝えた人もポジティブになる

感謝を伝えよう
他者から受けた行為や恩恵は、その気持ちを「感謝」として口に出し、伝えることが大切です。

感謝の気持ちを伝えることは、初めは必ずしも簡単ではないかも知れません。
人には「利己的なバイアス」があり、良いことが起きたときには「自分の成果だ!」と嬉しくなり、嫌なことが起きたときには、ついつい傷つきから逃れるために防衛機制が働き、人や環境のせいだと言い訳してしまうことがあるからです。

そのため、良いことが起きたときに「一部は私の成果かもしれない」「わたしも頑張ったから」と自分を労いつつも、環境を与えてくれた肉親や上司、サポートしてくれた周囲の人たち、食事やサポートなどしてくれたご家族、PC作業をサポートしてくれたIT担当の人、安心して眠れる今の環境、チャンスをくれた人たちなど、周囲に対する視点を持ち、感謝の気持ちを育みます。

感謝のレッスン
ロバート・エモンズ博士は、感謝日記をつけることを推奨しています。
エモンズ博士の著書からご紹介しましょう。

①感謝日記を用意しましょう。毎週、感謝していることを5つだけリストアップし、書き出してみましょう。
②定期的に自分に対する恵みや恩恵、祝福を数えましょう。自分の人生に大切な人たちに関連した感謝の瞬間を思い出しましょう。
③感謝の動作を心がけましょう。微笑むこと、「ありがとう」ということ。、感謝の手紙を書くことなど実行に移します。

いかがでしょうか。感謝を意識することから始めてみませんか?

 

参考:【「感謝」の心理学―心理学者がすすめる「感謝する自分」を育む21日間プログラム ロバート・A・エモンズ著/中村浩史訳 産能能率大学出版部】
【Emmons,R.A.,& McCullough、M.E.,Counting blessings versus burdents:An Experimental Investigation of Gratitude and Subjective Well-Being in Daily Life,Journal of Personality and Social Psychology,2003】
【ポジティブな感情の機能: : 自己改善と前向きな変化の動機としての感謝 Christina・N・Armenta】
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1754073916669596

 

筆者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師

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