両立支援

職場のメンタルヘルス ~男性の産後うつ病について学ぶ~

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男性の産後うつ病の発生状況

「産後うつ病」と聞くと、多くの方が女性をイメージするのではないでしょうか。
ところが近年の研究で、周産期は男性も8.4%、約11人に1人の確率で産後うつになることが明らかになりました。
また産後に強い心理的ストレスを抱えているのは、母親に限らず父親も母親と同程度(11%)の強いストレスを感じていることが報告されました。(※1)。

相談室にも、「妻の出産後に、やる気の低下、集中力の減少、睡眠の不調が感じられる」という夫からのご相談が寄せられたり、部下の異変に気が付いた上司から、「部下のやる気が感じられなくなった」「仕事のパフォーマンスが下がったのは妻の出産が影響しているのだろうか?」などのご相談も寄せられることがあります。

周囲が気がつき声掛けをしたり、ご自身でご相談される方は手当や対処が比較的早くできることから、悪化を予防することができますが、父親の多くは、「まさか自分が?」「一時的かも」「頑張った妻に申し訳ない」「パートナーはもっと大変だから」と我慢してしまったり、見過ごされてしまうことが多いのではないでしょうか。

こうして見過ごされがちな男性の産後うつ病について、厚生労働省は2020年から父親の「産後うつ」に着目した研究班を立ち上げ実態調査を実施し対策を検討していくことになりました。
研究班の代表 国立成育医療研究センターの竹原健二室長によると、「夫婦のどちらかがメンタルヘルスの不調になると、もう一方も不調に陥る可能性が高くなる傾向がある。夫婦が同時期に不調となると、養育環境も著しく悪化しやすくなることが懸念される。そういう危機的な状況を防ぐためにも母子だけでなく、父親も支援対象とみなければならない」と産後のメンタルヘルス不調のリスクについて語られています。

夫婦のメンタル不調リスク

更に竹原室長は「夫婦が同時期に精神的な不調のリスクありと判定される世帯のリスク因子として、父親の長時間労働(週55時間以上)、母親の睡眠時間の短さ(6時間未満/日)、子どもが6~12か月であること、なども示されています。(※2)

夫婦共稼ぎの世帯が5割を超える社会的な変化から、父親も家事・育児をすることが当たり前に求められる価値観が定着しつつあります。一方で、父親の労働環境は改善されておらず、父親の家庭と仕事の両立は厳しさを増していると思われます。

男女共同参画白書(概要版) が公表した平成30年版では、週間就業時間60時間以上の雇用者の割合を男女別に見ると、特に子育て期にある30歳代及び40歳代の男性において高い水準となっています。

政府の施策

社会環境の変化に伴い、政府は育児介護休業法の改正を行い、2022年4月から順次施行を始めています。
厚生労働省は、企業に対し、男性、女性にかかわらず自身や配偶者の出産や妊娠を届け出た社員に育休を取る意思があるかを確認するよう義務づけました。父親の「育休」だけでなく、今後は子どもの誕生直後に父親も「産休」が取れるようになります。
男性産休は、子どもの生後8週間以内に最大4週間まで父親が育休を取れるようになるしくみです。

このような政府の取り組みが功を奏し、2020年度に育児休業を取得した男性は12.65%で初めて1割を超え、過去最高を記録したものの、政府目標の13%には達していない現実があります。また、残念なことに企業規模が小さければ小さいほど、育休の取得率は下がる傾向が示されています。
男性の「産後うつ病」を予防するためには、産業全体で男性も育児休業を取得しやすい働き方を推進することが求められます。

企業によるサポートが重要

男性の産後うつ病の代表的な症状として、
・不快気分 ・気力の低下 などうつ病の代表的な症状に加え、・怒り ・苛立ち ・過活動 ・衝動コントロール困難  が表れることもあると言います。(※5)

また、発症時期も、女性の産後うつの発症ピークが出産3か月以内であるのと違い、男性の産後うつは、出産の3~6か月後が最も発症率の高い時期になります(※6)。

こうした情報をもとに、企業は以下のことを視野に入れた対策を行い、男性の産後うつ病の予防を行っていただければと思います。
・男性の産休、育児休業取得の推奨
・常態からの変化を観察し、声掛け、見守りの実施
・就労時間の調整
などなど。

予防に何より大切なポイントは、男性の産前・産後うつ病への理解の促進、啓蒙、教育です。
男女、年代に関わらず、全ての社員が思い込みを修正し、男性でも産前・産後うつ病の発症のリスクがあることをぜひ、認識し、見守る環境、相談できる環境を作っていただければと思います。

 

 

筆者:産業カウンセラー 公認心理士

参考:※1 日本の産後期における親の心理的苦痛:全国横断調査の人口ベースの分析
Takehara K, Suto M, Kato T. Parental psychological distress in the postnatal period in Japan: a population-based analysis of a national cross-sectional survey. Sci Rep. 2020 Aug 13;10(1):13770.
※2 Sci Rep. 2020[PMID:32792607]
※3 Lancet Psychiatry. 2017[PMID:29153626]
※4 Paulson JF, Bazemore SD. Prenatal and postpartum depression in fathers and its association with maternal depression: a meta-analysis. JAMA. 2010 May 19;303(19):1961-9.
※5 Williamson MT. Sex differences in depression symptoms among adult family medicine patients. J Fam Pract. 1987 Dec;25(6):591-4./ Winkler D, Pjrek E, Kasper S. Anger attacks in depression–evidence for a male depressive syndrome. Psychother Psychosom. 2005;74(5):303-7.
※6 Paulson JF, Bazemore SD. Prenatal and postpartum depression in fathers and its association with maternal depression: a meta-analysis. JAMA. 2010 May 19;303(19):1961-9.

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