こころとからだの健康

メンタルヘルス ~「ネガティブ・ケイパビリティ」を知る~

2023/02/20
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近年の社会変化を表現する言葉に「VUCAの時代」が使われるようになり、耳にする機会も増えてきました。
「VUCA」という言葉は「変動的(Volatile)」で、「不確実(Uncertain)」で、「複雑(Complex)」で、「曖昧(Ambiguous)」の頭文字で表現されます。

こうした時代に生きるためには、性急に答えの出せない状況や不確実さや不思議さの中にいて事態に耐えうる「耐える力」が必要と言われています。
この耐える力をネガティブ・ケイパビリティ、負の能力として日本語で「消極的受容能力」と訳されます(藤本2005)。

この言葉が世の中に初めて示されたのは、「事実や理由をせっかちに求めず、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいられる能力」と英国の詩人ジョン・キーツが兄弟に宛てた手紙でした。最初は文学の分野で使われた言葉でしたが、心理学の分野に持ち込んだのは英国の精神分析医であるウィルフレッド・R・ビオンです。
ビオンは患者に対する不思議さ、神秘、疑念をそのまま持ち続け、性急な事実や理由を求めない態度が必要と説きました。

本来、人間の脳は物事を「理解しよう」「対処しよう」「解決しよう」「分かろう」という傾向があります。答えが出ない状況は苦手なのです。
分からないことを分からないまま持ち続ける、耐え抜くには能力が必要です。
まさに、この能力こそがネガティブ・ケイパビリティなのです。

VUCAの時代は、これまでの経験から培ってきた既存の「知識」や「体験」だけでは、課題の解決が難しい状況があります。それはまるで深い霧の中を手探りで歩いていくような感覚に襲われるようなものです。
直ぐに答えが得られない欲求不満に耐え、宙ぶらりんの状態を耐え抜く力が問われるようになります。

例えば、部下との世代間ギャップが埋められないとき、相手の思考への理解が得られないとき、説明のつかない事態に直面したとき、あえてその「不確実性」「曖昧性」に身を任せ、複雑さや変動に身を置き、拙速な決断をしない。物事を大局で受け止め、スローダウンして受容する。
困難な時代だからこそ、「できない状況に耐える力」が求められるのではないでしょうか。

精神科医のグラント・ヒラリー・ブレナー医学博士はネガティブ・ケイパビリティが身につくことによるメリットをいくつか示しています。
一つ目は、
・感情をコントロールできるようになる。
二つ目は、
・理論のつかないこと、理論的ではないことに寛容になる。
三つ目は、
・創造性と好奇心が向上する。

残念ながら、ネガティブ・ケイパビリティを身につけるためのマニュアルはありません。
けれども、筆者は、このネガティブ・ケイパビリティという「負の能力」「できない状況に耐える能力」の概念を知ることで、答えが出ないときに状況を受容し、耐えることを意識することが始まりなのでは、と考えます。
「何もしないことをする」「在りのままに受け止める」「一旦立ち止まり俯瞰で観察する」
こうした消極的受容を試してみていただければと思います。

 

参考:「Building “Negative Capability” to Unlock Hidden Potential」(Grant Hilary Brenner MD, FAPA/Psychology Today)
『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』(帚木蓬生/朝日新聞出版)

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