こころとからだの健康

職場のコミュニケーションシリーズ Part.7 ~人のはなしを「聞く」ということ~

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皆さまは、社会生活の営みの中で“人の話を聞く”ことを当たり前にしておられると思います。
ここで質問です。「あなたは人の話を聞けていますか?」

「きく」行為は3つ

コミュニケーションスキルアップ研修を行うときに必ずと言っても良いほど含まれるポイントがあります。それは「きく」を3つの行為に分けるというものです。

相手の発した内容を耳で「聞く」、話し手に感心を寄せ、言葉にならない気持ちも「聴く」、理解を伝えたり、分からないことを口で「訊く」の3つです。

実は聞けていない「聞く」

「行って来まーす」⇒「おぅ、行ってらっしゃい」
「今日のご飯はパスタを食べたいな」⇒「あら、ハンバーグにしたわ」
「明日の休みは天気がよさそうだね」⇒「ほんと!助かるわ。まとめ洗濯して衣替えしちゃうわ」

「聞く」行為については、みなさまは普段、日常の中で当たり前のように実践していると思います。そのため、特に自分の聞き方の問題に直面したりせず、自然に対話をしている方がほとんどでしょう。

ところが、相談室でご相談をお受けしていると、この「聞く」が実は問題になっていることが多いことに驚かされます。

「上司には伝えていたのに……」
「部下には確認したのに……」
「夫はちっとも話を聞いてくれない」
「『できます』って言ったよね?!」
などなど。ご経験ありませんか?

「言ったつもり」「分かったつもり」になっている対話のなんと多いことか。
話し手の伝えたい事実を「文字通り」に、「ことば通り」に聞き取ることが何故うまくいかないのでしょう。

話し手が話し終える前から決めつけてはいませんか?

話し手の語る内容をそのまま「聞く」ことが、「聞く」の基本です。

けれども多くの人たちが、内容が耳に入ってきた瞬間に自分の価値観に当てはめてしまい、自分なりの結論を出してしまっているようです。

「それって○○でしょ」「そんな意見は到底受け入れられないよ」「えーっ?」
話し手の語る内容を受け止め、話し手の考えや主張を理解する前に、自分の解釈で決めつけてしまう。
また、話し手や内容に関心を抱かず、話半分な態度で聞いている。

そうした態度を話し手は敏感に察知します。
「伝わってないな」「反対なんだ」「聞いてくれない」「話しても無駄か」

アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)

こうした自分の価値観を押し付けてしまうことを「アンコンシャス・バイアス」と言います。

私たちは成育暦の中で親のしつけ、教育、生きた時代の常識などの影響で無意識の内に偏見や思い込みが摺りこまれます。
自分の常識や価値観は、話し手にとっての常識や価値観ではないため、アンコンシャス・バイアスが発動されると、相手の話を語られた事実そのもので聞くことが難しくなってしまうのです。

「人には人の常識がある」「事情は人によって変化する」「価値観は千差万別」という修正ができると、話の聞き方も変わるでしょう。

人はみな違う

わたしたちは「人はみな違う存在」であることを頭では分かっています。
けれども、話を聞くときになると、どうやら、自分に当てはめてしまうことが起きるようです。

子どもには子どもの言い分があり、部下には部下の考えがあり、妻には、夫にはそれぞれの価値観があります。

自分の解釈を入れずに話し手の語る内容に集中し、その「言葉をしっかり受け止める」こと、立場が違っても、年齢差があっても、話し手を尊重し「聞かせてもらう」ことはできているでしょうか?

相手への関心を抱き、発せられる「ことばを大切」にすること。
分からないこと、理解に至らないときには、「問いかけ」て、相手が話そうとしている事実を確認し、理解を共有すること。

最後まで「話し手を主役」にし、自己中心にならぬよう努めることは、案外難しいものです。

最初にご紹介したケースで見てみましょう。

「明日の休みは天気がよさそうだね」と発した夫は、『天気が良いなら二人でちょっと遠出もいいかも』と考えていました。

ところが妻の反応は、
「ほんと!助かるわ。まとめ洗濯して衣替えしちゃうわ」
と夫の言葉を通り越し、聞かれてもいない自分の予定を話しだしてしまいます。

ここで、もし、「そうね。一日中、良い天気みたい」と夫の言葉をそのまま返し、夫の次の言葉を待てていたなら、夫から久々の外出の提案を聞けたことでしょう。

こうしたちょっとしたすれ違いのやり取りは、親しい間柄であれば修正もしやすいでしょう。
けれど、部下と上司間ではそうはいきません。

上司が先走り、自分の価値観で希望を伝えてしまったら、部下は自分の伝えたかったことを押し込めてしまうかもしれません。

聞いた内容をそのまま受け止めることは、信頼関係を作るうえでとても大切な要素です。

顔が見えない相手と話すとき

新型コロナ感染症の感染予防から、対面での会話が減少してしまいました。

相手の顔が見えずに行われる会話が増え、「コミュニケーションが取りづらい」「相手との距離を感じる」というご相談も寄せられるようになり、3年が経過します。

「話したい」のに、「聞かせてもらいたい」のに、距離を感じてしまうのはとても残念なことです。
電話やWeb上で行われる会話はノンバーバル情報が少なく「分かってもらえなかった」「聞いてもらえなかった」「話が深まらなかった」と言われる状況に陥りがちです。

相手の表情が見えないと「聞いて貰えているのかな?」と不安が生じ、また、「伝わっているだろうか?」と自信がなくなります。

基本的なスタンスは通常の会話と変わらないのですが、覚えておきたいいくつかのポイントをお伝えしましょう。

電話の会話、Webの会話で気をつけたいこと

・相づちを大切に
対面の際には、うなづきで反応していたものを声に変換しなくては伝わりません。
「うんうん」「なるほど」「そうなんだ」「へえ」「それで?」「ふぅん」「えっ!」「それは」「そんなことが」「うーむ」などなど、話し手の語る内容により、バリエーションを使い分けます。
バリエーションを多く持たない人は、声のトーン、強弱で聞いていることが伝わるようにしましょう。

・「間」を壊さない
電話での会話、Webでの会話は対面より「沈黙」を苦手と感じる人が多いようです。
相手の発語に被らないよう、沈黙を尊重し、5秒くらいは待つ心の余裕を持ちましょう。

・初めに時間を決める
電話などでは相手の状況が分からないことが多いため、話し始めに確認を行ないましょう。
「今少し話しても大丈夫? 少し時間をもらえるかな。」
「電話をありがとう。今なら10分くらいなら話せるけれど、少し待ってもらって2時過ぎなら小一時間大丈夫」
相手への気遣いを伝え、また聞く側、話す側の準備ができるように配慮しましょう。

・分からないことを分からないままにしない
理解できない事柄を聞いたとき、そこに思考が集中してしまいがちです。そのワードや状況が気になり、話を追えなくなってしまいます。
対面だと「あれ?」という状況を話し手が気が付いてくれることもあるのですが、電話やWebでは話し手への情報も減少しているため、分からないことを言葉にする必要が生じます。
「今の話をもう少し詳しく説明してもらえるかな」
「○○という言葉を聞いたことがなかった。どのような意味だったのかな」

・理解したことを口にする
電話での会話は、互いの情報量が大きく減少していますから、聞いた内容への理解を話し手にフィードバックする必要があります。
「○○の話を、僕は○○と受け止めたのだけれど間違っていないかな」
「あなたの一番言いたかったことは、○○だね」
「○○に対して腹が立っているってこと?」
こうした問いかけや確認をし、あなたの理解がもし間違っていれば、話し手は修正をしてくれるでしょう。

いかがでしたでしょうか?
「聞く」ことの基本は、話し手に対する興味、話し手を尊重する態度です。
「聞く」達人になれるよう、日々の会話の際には、こうしたポイントを意識し、対話を楽しんでいただけたらと思います。

 

筆者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師

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