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部下育成に心理学を応用する Part12 ~「If-Thenプランニング」と「ズーニンの法則」~

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春は新入社員を迎える季節です。
新しく入社された社員は、そろそろ研修を終え、それぞれの配属先においてご活躍されていかれると思います。

相談室では、この時期に入ると、新入社員を受け入れた部門長の方からのご相談をいただくことが増えてきます。
「折角採用した新入社員の動機づけをどのように行ったらよいでしょうか?」
「コロナ禍を経験した新入社員に対して、今までの接し方でよいのでしょうか?」
「どうも前向きな姿勢が見えず、与えられたことしかしない印象があるが、指導の方法が分からない」
などなど。

今回はそうしたご質問に対し、心理学の視点からご提案を行いたいと思います。
「やる気スイッチ」を押すヒントの一助になれば幸いです。

イフ-ゼンプランニング(If -Thenプランニング)とは

Z世代の特徴の一つに、「何かに挑戦して失敗するより、失敗を回避して安定していたい」「無理のない範囲で働きたい」「できたことを承認して欲しい、認められたい」といったことが挙げられます。

そこでお勧めしたいのが、If-Thenプランニングです。
この手法は、コロンビア大学の社会心理学者ハイディ・グラント・ハルバーソン氏が提唱した目標達成のための心理学を応用したテクニックです。

始める前に想定する
If-Thenプランニングでは行動する前に、「いつ」「何」をやるかを決めておきます。
まず「If もし~なら」の状況を想定します。
そして、「Then その時は~」の行動を決めておくという方法です。
決めておくことで、何となく始めたり、漠然と行動するより実行可能性が2倍から3倍高くなり、失敗も回避できると言われています。

If-Thenプランニング具体例

上記のように、あらかじめ想定できる出来事に対して、具体的な解決策をできるだけシンプルに計画しログを残しておくことがポイントです。
難しい計画表を作成するのではなく、確実に実行できることを「いつ」「なにを」「どうするか」を想定して決めておくことで、やるべきことを忘れずに達成することができます。

If-Thenプランニングのコツ
・ルールの数は少なめに
・使う人の状況に合わせて変更をする
・具体的にシンプルに
・柔軟性を持って

覚えることや習得するスキルが多い新入社員は、時間に追われることも多いでしょう。
うっかり忘れる、単純ミスをすることもあるかもしれません。本来はできるチカラが備わっていても、人はミスを犯すものです。

そうしたことを防ぎ成功体験を積み上げるために、確実さを効率よく上げていく方法として、ぜひIf-Thenプランニングを活用しましょう。

ズーニンの法則とは

Z世代は多様な価値観を尊重し柔軟性に富んでいますが、半面、主体性が未熟な印象もあります。始めの一歩を支え、まずは挑戦させてみると言った積極的な関りもときには大切です。

ズーニンの法則とは、アメリカの心理学者レナード・ズーニンが提唱した法則です。
「初動の4分間」(ザ・ファースト・フォー・ミニッツ)とも呼ばれています。
この法則は、脳の仕組みに関連した、至ってシンプルなものです。
「最初の4分間の行動が脳に大きな影響を与え、やる気は後からついてくる」という法則です。

ズーニンの法則は、脳の仕組みを利用
側坐核は脳の領域で報酬系や快感に関与しています。行動を起こすことで側坐核が刺激されドーパミンが分泌されます。このドーパミンがモチベーションを高める役割を果たし、行動を支え、その成功体験によって更なる行動を促すのです。
脳科学の研究で、最初の4分間が行動を起こす上でとても重要であることが分かりました。

ズーニンの法則を活用するには
1.スモールステップから始める
なにか新しいことを始める際に、抵抗や不安を感じる人は少なくありません。特に若い世代は失敗に対する抵抗が強いと言われています。失敗体験から入ると自己肯定感が低下し、その後のモチベーションに影響が出ることもありますから、最初の一歩は、必ず達成できる小さな課題からスタートすることが肝心です。

達成感は次のチャレンジの動機付けになります。小さな成功体験を重ねていくことで、最終的には難しいゴールの達成も可能になります。課題を分別し、小さなゴールを設定することで、進捗状況が自分自身にも周囲にも伝わりやすく、また、修正点の見直しも可能になります。

2.労うことで承認欲求を支える
学生時代は横のつながりがメインだった人間関係も、社会の一員になることで縦のつながりがメインになります。上司や先輩からの声掛け、承認が外発的動機付けとなりやる気を支え、また、コミュニケーションのきっかけになります。

努力の過程を労い、承認し、必要なときにはサポートを行いましょう。もし、失敗と思える状況に陥った際には、失敗をあげつらうのではなく、次の達成のために役立てるポイントを一緒に探し、失敗を成功の糧とする考え方を伝えます。こうしたサポートはレジリエンス力を高めることにも繫がります。
行動をし続けること、諦めずに挑戦を続けることが部下の成長に繋がります。

If-Thenプランニングやズーニンの法則を活用するには、目標設定やスモールステップが大切とお伝えしてきました。
こうした心理学を活用するときに最も大切なことは、上司の支援です。

入社後、日の浅い新入社員は慣れない人間関係の中で自分の立ち位置や存在意義を探り、実現可能な目標を探さねばなりません。どのような作業から始めたら効率が良いのか、スキルを上げるために役立つ学びは何なのか、誰とどのようにコンタクトを取り、何を相談できるのか、最初の手間暇を惜しまず、ひとつ一つを丁寧に指導し、相談に乗ることが不可欠です。

部下の「やる気スイッチ」は部下自身はもちろん、上司も押すことができることを忘れずにサポートをしていきましょう。

参考:やる気が上がる8つのスイッチ コロンビア大学のモチベーションの科学 (コロンビア大学モチベーション心理学シリーズ)
ハイディ・グラント・ハルバーソン (著)、 林田レジリ浩文 (翻訳)

筆者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師

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