こころとからだの健康

メンタルヘルスのためのモチベーション

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仕事へのモチベーションは多くの社会人の課題といえます。従業員自身のやる気、上司から見た部下のやる気、どのように高めたらよいのか悩んでいる方も多いと思います。今回はこのメカニズムについて簡単に解説して参ります。

モチベーションについて

モチベーションとは
モチベーションは、人の“動き”を支えるものとされています。日本語で、“動機”と訳されます。人はなぜ動くのか、なぜ行動を起こすのかを知るための概念です。

欲求とモチベーション
まずは、モチベーションの最も基本的な原理である“欲求”という考え方からみていきましょう。動物には、食欲や睡眠欲に代表される“欲求”が存在します。この欲求を満たすために行動が生じると言われています。そして欲求が満たされるとその行動は停止するという特徴があります(動因低減説:Hull, C, L.)。

たとえば、ご飯を食べるという行動は、お腹が空いたという食欲を満たすために生じます。そして、お腹いっぱい=食欲が満たされると食べるという行動は停止します。

これは生存に必要な基本的欲求の例でしたが、人間は食べる、排泄する、眠るだけで満足する生き物ではありません。他にも社会的欲求(Murray, H, A.)と呼ばれる様々な欲求があります。そして、それらの欲求についても、上記のメカニズムを使って理解を深めることができます。

例を挙げてみましょう。

・ 親和欲求を満たしたい
⇒「仲良くなりたい」と人に話しかける
自分の気持ちを誰かと共有する

・ 承認欲求を満たしたい
⇒「イイね!」を求めてSNSに写真をアップする
褒められるためにスキルを上げる

・ 達成欲求を満たしたい
⇒「やってやろう!」と難しい仕事にチャレンジする
「新記録を作りたい」と試合に臨む

・ 安全欲求を満たしたい
⇒安定的な生活を実現するために仕事をする
病気に罹らないように細心の注意をしている

どうでしょう、皆さまのこころの中にもこのような欲求がいろいろとあるはずです。身近な行動がどのような欲求を満たすために生じているのかを考えてみると、より実感をもって理解できるはずです。

自己実現欲求
これまで解説してきた欲求は、欠乏しているものを満たそうとするものでしたが、これまでの「満たされていないから欲する」欲求とは異なる“成長欲求”の存在もあると言われています。これは自己実現欲求(Maslow, A, H.)とも呼ばれており、自分の能力を発揮し、創造的活動をしたいというものです。この欲求は、行為そのものに楽しみややりがいを見出して、それ自体をしたいという欲求であり、報酬や見返りを求めず、内面から生じる行動です。これが見出せればより充実した生活を送ることができると言われています。

動機づけの種類

次は、モチベーションについて、欲求とは異なる切り口からみていきましょう。ここでは外発的動機づけと内発的動機づけという二つを紹介します。

外発的動機づけと内発的動機づけ
まず、外発的動機づけとは、外的な報酬のために行動することを説明する概念です。行動の理由を聞いた時に「お金がもらえるから」「褒められるから」「出世できるから」などと回答する人は外発的動機づけをもとに行動しているのだと考えられます。

一方で、内発的動機づけとは、行為自体を目的として行動することを説明する概念です。行動の理由を聞いた時に「楽しいから」「上達したいから」「知りたいから」「ワクワクするから」などと回答する人は内発的動機づけをもとに行動しているのだと考えられます。

なお、外発的動機づけは報酬や見返りが無くなると、すぐにその動機は低くなってしまいます。
「ただ働きはしたくない」
「ボーナスが下がったから辞めようかな」
「いくら頑張っても褒めて貰えないからやる気が失せたよ」
などは一例ですが、報酬が得られないと、その行為自体を辛く感じることも多いようです。そのため、こちらの動機づけはあまり長続きしません。
一方で、内発的動機づけは、行為そのものに価値を見出して行動するため、その活動自体にやりがいや楽しさを感じるため、長続きします。

外発的動機づけは良くない?
このように考えると内発的動機づけの方が望ましいような印象を持たれるかも知れません。確かに、何年にもわたって長く続けるような行動に関しては内発的動機づけの方が望ましいと言えるでしょう。
では、外発的動機づけはすべてが良くないのでしょうか?

答えは、NOです。実は単純にそうとは言えません。
例えば、受験勉強をイメージしてみましょう。
「あの学校に入りたい、そのために頑張る」というモチベーションのあり方が想像できます。これは「志望校に入学できた!」という外的な報酬を目的とした行動ですから、外発的動機づけによるものといえるのです。
遊びたい気持ち、勉強はツラいな、というハードルを乗り越え、自らの力で達成した志望校入学です。これから新たな経験が待っています。
これを外発的動機づけだから単純に良くないことだという人はいないでしょう。外発的動機づけも行動を起こすための立派な理由になり得るのです。

また、この例からわかるように外発的動機づけは行動を起こす起爆剤にもなります。
達成できたら喜びがあると分かっている先輩が、経験していない若手社員に対して、「楽しいから!」「将来のためになるから」とモチベーションの低い人に対して「やりがいを感じろ」と言ったところで、それは難しいことです。その人にとってつまらないものはつまらないのです。しかし、そのようにつまらない時でもやらねばいけないことが仕事においては発生することがあります。そういう時にこそ、上手に報酬を与える外発的動機づけを用いると、ひとまず行動を起こさせることが可能になります。

いずれは内発的動機づけへ
一度やってみると、次からその行動を起こす際の負担は初回に比べて減ることが想像できます。始めの一歩が出たことで、その後の歩みも生じます。そして、それが繰り返されるとその行動は次第に習慣化され、さらに意識的な努力が不要になっていくことでしょう。

ほかにも、やる前はつまらなそうだと思っていたものでも、やってみたら案外楽しいぞと思うこともありますね。自分では無理だと思うようなことでも、実際にやってみたら思いのほか上手にできて、自分の能力を発揮している感覚を得ることもできるかもしれません。

外発的動機づけは行動を起こすきっかけを提供します。報酬につられてやってみると、次の行動を起こしやすくなりますし、やっているうちにそれ自体を好きになってしまったということがあり得るのです。つまり、はじめは外発的動機づけだったが、気づいたら内発的動機づけになっていたということも生じうるということですね。

人は、欲求を満たすために行動を起こしますし、報酬を目的として行動を起こします。
一方で、その行動自体にやりがいや楽しさを見出すこともあります。モチベーションのあり方は多様ですが、これらのつながりを理解し工夫することで自分自身を奮い立たせたり、他者の行動を促すことも可能になるかもしれません。行動は課題の達成を導き、達成は喜びや充足感をもたらします。モチベーションの知識はさまざまでなポジティブな影響を組織にもたらします。ぜひ社員教育にお役立てください。

筆者:パソナセーフティネット 臨床心理士、公認心理師

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