こころとからだの健康

モチベーション(自己効力感)について考える

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仕事に対するモチベーションを維持するのはとても大変なことです。仕事をすることが苦痛に感じたり、嫌になってしまうと豊かな社会人生活を送ることは難しくなります。せっかくなら前向きな気持ちを持ちながら仕事をしたいものですね。
今回は仕事への向き合い方とモチベーションの関係について説明しようと思います。

魅力的な仕事ならやる気になる?

あなたはご自身の仕事に満足していますか?
スケボー選手や野球選手、オーケストラの演奏者やお笑い芸人さん、ユーチューバーなどをみて「自分の好きなことを仕事にしている人は楽しそうでいいな~」なんて考えることもあるのではないでしょうか。
そのように他人の仕事を羨んだり、好ましく考えたりする人にとっては、今の自分の仕事について「あんなふうに惹きつけられる価値を感じることができないから、中々やる気が出ないんだよ」と思っても不思議ではありませんね。

では、魅力的な仕事ならば本当にやる気が出るのでしょうか。
もし好きなことがあったら、やりたいことがあったら、それを仕事にすれば一件落着ですね。例えば、サッカー選手になりたい、政治家になりたい、宇宙飛行士になりたい、などです。

しかし、このような仕事をあなたは“実際に”目指そうと思いますか?
また、その仕事は一般学生の就職希望ランキングに入っているでしょうか?

そうです。上記に挙げた例のような仕事を目指そうとする人は一部の人ですし、高校生や大学生の就職希望ランキングの上位に入ることもまずないでしょう。
それはなぜなのか。魅力的な仕事をすることが幸せにつながるのならば、それを目指そうとする人であふれると思いますがそうはならないのです。

価値を感じるだけでは行動は生じない
人が行動を起こすためには“期待”が必要です。アメリカの心理学者アトキンソン, J. W.によると、人は自分が想像した通りの結果になるという可能性を感じることができると行動を起こす(やる気が出る)とされます。いいなと思いながらも「自分にはなれない、努力するだけ無駄だ、目指しても仕方がない」となると行動は生じませんし、やる気も起こりません。

上記の例は極端なお話でしたが、これは会社員が何か新しい仕事や企画にチャレンジする場面でも同様の現象が起こり得ます。また、日常生活における家事や趣味などにおいても同じことが言えるのです。そして、上記の例は何かを“目指すモチベーション”のことでしたが、この考え方は仕事を“続けるモチベーション”ひいては“幸福感”とも関係しているのです。こちらについて、次のセクションでより詳しくみていきましょう。

自己効力感と学習性無力感

上記の“期待”に関係する心理学の概念に自己効力感と学習性無力感というものがあります。

やる気を高める“自己効力感”
自己効力感とは、カナダの心理学者バンデューラ, A.によって提唱された概念で、自分が動けば結果は変わると思えること(結果期待)と、実際に自分はその行動を起こすことができると思えること(効力期待)を兼ね備えた感覚のことです。
自己効力感が高いと、実際に特定の行動を遂行することができ、たとえそれが成功しなかったとしても、粘り強く頑張ることができるようになると言われています。

やる気を失わせる“学習性無力感”
一方で、学習性無力感とは、アメリカの心理学者セリグマン, M. E. P.によって提唱された概念で、長期にわたって回避不能な嫌悪刺激を与えられ続けると、回避が可能になった際にも、行動を起こそうと思わなくなる感覚のことです。
「どうせ何をやってもダメだ」という信念ができてしまうと、せっかくチャンスが巡ってきたとしても行動を起こさなくなってしまうと言われています。

自己効力感は行動を引き起こす要因となる感覚であり、学習性無力感は行動を抑制する要因となる感覚と言えます。モチベーションということを考えると、前者を高めることが大切であることがわかります。

自己効力感を高めるにはどうすればいいのか

自己効力感は意識的に高めることができると言われています。いくつか方法があるので簡単にご紹介します。

“成功体験をする”
自らが直接的に成功を経験することが第一に挙げられます。
スモールステップを意識しながら、失敗しなさそうな簡単な課題からスタートするとよいでしょう。成功体験をコツコツと積み上げていくことが大切です。開始序盤に失敗体験を繰り返してしまうと、反対に学習性無力感が生じてきてしまうたるため要注意です。

“他者の成功を見る”
他人の頑張っている姿を見ると「自分にも何かできるはずだ」「自分も頑張らないと!」という気持ちが喚起されると言われています。懸命にスポーツに取り組んでいるアスリートの姿は感動を覚えます。その姿に勇気をもらえるし、自身のやる気にも繋がったりします。
私がおすすめしたいのは、ドラマや映画、漫画やアニメを見ることです。特に、主人公が最初は下手だが徐々に上手になっていくような成長物語を見ると自己効力感が高まっていきます。
「赤毛のアン」の成長物語、今話題の「鬼滅の刃」などは、主人公が徐々に技を習得し、これまで到底かなわないと思われた敵に立ち向かっていき、勇気をもらえます。

“褒められる体験をする“
専門用語で“言語的報酬”といいますが、これも自己効力感を高める要因と言われています。特に、能力ではなく努力してきたプロセスを褒められるとより効果的とされています。ただ、これは他者から褒められるということが基本となるため、自身で意識的に行うことが難しいですね。そのため褒めてくれる人が傍にいるような環境が望ましいといえます。それを整えるためにも、日頃から良好な人間関係の構築を意識していくことが大切です。
また、部下の成長を願うのであれば、褒めることができる上司であることも大切です。
その際は、経過でほめる、結果でほめる、態度でほめるなど多くの称賛、承認ポイントを見つけましょう。
この「ほめる」行為は、子育てで子どものやる気を促す大切なポイントでもあります。

自己効力感は他の事柄にも影響する

何かをきっかけに自己効力感が高まると、その感覚は他の事柄にも影響します。これを“般化”といいます。
例えば、掃除することが習慣化し、部屋を綺麗にすることに対して自己効力感が高まった場合に、一つの部屋を綺麗にすることだけに留まるのではなく、その効力感は、
家事全般や仕事、趣味などへと展開し広がる可能性があります。

そして、自己効力感はモチベーションの源となります。モチベーションは行動を生じさせ、その行動よって課題は達成されます。そして課題の達成によって充足感を得ることができます。つまり、自己効力感を高めることは日頃の幸福感にも繋がり得ると言うことです。

今回は自己効力感を中心にモチベーションについて解説して参りました。日常生活において、小さな成功体験を積み重ね、自己効力感を高めていきましょう。それは仕事をするモチベーションにも影響を及ぼし、豊かな社会人生活につながるかもしれません。ぜひ参考にしていただきたく思います。

 

筆者:パソナセーフティネット 臨床心理士、公認心理師

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