こころとからだの健康

12月はハラスメント撲滅月間

2025/12/01
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12月は厚生労働省が定めた「職場のハラスメント撲滅月間」です。
毎年、この期間には、ハラスメントのない職場づくりを推進するため、様々な啓発活動、集中的な広報などを実施しているものの、残念なことにハラスメントの大幅な減少には至っていません。
そこで今回のコラムでは、改めてハラスメントについて考えていきたいと思います。

法律で定義されている「ハラスメント」とは?

ハラスメントには、法律で定義されたものと、一般的に口にされる○○ハラスメントがあります。一般的に言われる○○ハラスメントは、今や40種類以上となりました。
今回のコラムでは、厚生労働省が法律で定めたハラスメントの種類の定義と、一般的なハラスメントの代表的なものを解説して参ります。

パワーハラスメント(労働施策総合推進法)
もっとも発生率の高いハラスメントがパワーハラスメントです。パワハラ防止法により事業主は対策が義務とされています。
定義:①優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われる言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境を害されるもの
これら3つの要素を全て満たすもの
https://www.mhlw.go.jp/content/11910000/001253528.pdf

セクシャルハラスメント(男女雇用機会均等法)
定義:職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されるもの

妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメント(男女雇用機会均等法、育児介護休業法)
定義:職場において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業、介護休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業・介護休業を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されるもの
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000137179.pdf

就活ハラスメント(改正男女雇用機会均等法、改正労働施策総合推進法)
2026年12月までに指針が公表されます。
特に定めた定義はなく、就職活動中やインターンシップの学生等に対するセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントの総称を指します。

「就活終われハラスメント(オワハラ)」は、就活中の学生に対し、自社への入社の決定を強制したり、他社への就職活動を終わらせようとするもの。
また、相手の弱い立場を利用した身体接触や性的な言動は「セクハラ」に該当します。
https://www.mhlw.go.jp/content/11910000/001168055.pdf

カスタマーハラスメント(改正労働施策総合推進法)
2026年12月までに指針が公表されます。
定義:顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの。
https://www.mhlw.go.jp/content/11921000/000894063.pdf

法律で定めた定義はないが、職場で発生しやすいハラスメント

スメルハラスメント
不潔臭、アルコール臭、タバコ臭等の他者を不快にする臭いのハラスメントです。近年では適量を超えた柔軟剤の使用による臭いに対する苦情も寄せられています。

モラルハラスメント
優越的な関係性のない同僚同士、チーム内等で発生するハラスメント
不適切な言葉や態度によって精神的な攻撃や圧力をかけ、相手を傷つける行為

不機嫌ハラスメント
自分の不機嫌さを無言で表現し、周囲に圧迫や不快感や苦痛を与える態度から、サイレントハラスメントと呼ばれることもあります。

ロジカルハラスメント
「なぜ?」「どうして?」など詰め寄る言葉や論理的な理屈を多く使い、他者に精神的な苦痛を与える行為。一見、理にかなっているように見えるが、過度な議論や自説の展開は相手に不安を与えたり、心理的圧迫となることがあります。

テクノロジーハラスメント
ITスキルやテクノロジーに関する知識やスキルの差を利用し、他者に嫌がらせを行なったり、不利益を与える行為

ジェンダーハラスメント
性別に基づき他者を不当に扱う行為
性別を理由に昇進や評価、報酬に差をつけたり、無意識の偏見により、女性にお茶くみをさせたり、力仕事を男性に与えたりする性別役割の押し付けはジェンダーハラスメントに該当します。

なぜ、ハラスメントはなかなか無くならないのか?

企業の取組みは進んでいるのだが
2020年6月1日より、ハラスメント防止対策が強化され、パワハラ防止措置が事業主の義務となったことで、各企業の対策は進んできました。
啓発、周知、教育、窓口設置などが行われ、企業のハラスメント予防・解決のための具体的な取組内容については、「相談窓口の設置と周知」がいずれのハラスメントにおいても最も高くなっています。

https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001259093.pdf

こうした施策が進んでいるにも拘らず、ハラスメントが無くならないのは、何故でしょう。
ここからは、ハラスメントが無くならない理由について、弊社に寄せられた相談も参考にしながら紐解いていきます。

明確ではない「ハラスメント禁止」
弊社で実施するハラスメント研修において、よくある質問として、
「何をしたらハラスメントとなるのか」「するなと言われても線引きはどこか?」「良かれと思って注意したのに」「部下指導との線引きは?」などがあります。

そもそも、以前は当たり前に行われていた言動、黙認されていた過去の常識が社会の変化により、「してはいけないリスト入りしている」ことがあります。
いわゆるアンコンシャスバイアスといわれる無意識の偏見や誤った価値観があると、ハラスメントが生じる要因となります。
自身の価値観を一方的に押し付けたり、そもそも人格を尊重しない言動はハラスメントと受け取られる可能性が高く、自分の信念や常識をあらためて見直すことが求められます。
それぞれの価値観を見直すヒントとしてチェックリストの活用も推奨しています。
全18問のチェックリストですが、職位が高いほど「はい」の数が多くなる傾向があり、
設問の結果を共有すると、世代間ギャップが明らかになり、自身の思い込みを振り返るきっかけとなります。
一部参考にご覧ください。

Q1自分より年下の人から口ごたえされると不快に感じる
Q2今の若い人は厳しさを知らないから鍛え直さないとダメだと思う
Q3パワハラは結局のところ弱い人間が言い出した問題だと思う
Q4普段からコミュニケーションをとっていれば、ハラスメント問題は起こらない
Q5怒鳴りつけないと分からない人間がいるのは事実だ
Q6今の世の中何でも「ハラスメント」と騒ぎすぎだと思う
Q7ハラスメントはされる側にも問題があると思う
こうしたチェックリストは様々作成されていますので、活用してみてはいかがでしょう?

価値観の多様化によるディスコミュニケーション
コミュニケーションは相互理解から成り立っています。相手の意見、思い、感情を理解し、自身の考えと擦り合わせをする手間暇を怠ると一方的なコミュニケーションと受け取られ、パワハラリスクが高まります。
過去、女性労働者の部下を持った経験がない。外国籍の労働者と協働するのは初めて。世代間ギャップが広がっている。など価値観の修正が求められる社会の変化があります。
こうした変化に対応するためには、相互理解を促進するコミュニケーションが大切です。
コミュニケーションは性格や年齢に関係なく、スキルとして身に付けることが可能ですので、相手を尊重し、自身も納得できるコミュニケーションスキル(アサーション、DESC法)などを社内研修で盛り込みます。

免責文化がある
「○○さんは仕事ができるから」「○○部長は結果を出すから」「○○さんは数字を持っているからなぁ」
ハラスメント行為者を庇うようなこうした組織の言い訳をこれまでも多く耳にしてきました。
実際に起きているハラスメントがあっても、このような企業体質があるとハラスメントはなくなりません。
パワハラ体質の上司の存在は、部下のメンタルヘルスに悪影響を及ぼすだけに留まらず、休職・離職、チーム全体の生産性の低下、組織への信頼の失墜、愛着の低下を起こし、長い目で見ると企業にとってはマイナス面が大きくなります。

閉鎖的な職場環境がある
地方などの閉鎖された事業所や異動がほとんどない組織でハラスメントは発生しやすくなることが調査から分かっています。
固定されたメンバーでハラスメントが発生すると、加害者、被害者の構図が強化され、ハラスメント行為がエスカレートするといわれています。
本社の目が行き届かない、ハラスメント通報制度が機能していない、人事異動が難しいなどの要因があれば、早期の手当て、被害者救済が大切です。

独り善がりの「良かれと思って」
ハラスメント行為者の言い訳に「良かれと思って」「親切のつもりだった」を耳にします。
「ばら色の過去」というアンコンシャスバイアスは、過去の体験に対する称賛ですが、これまでの成功体験や自己満足による「良かれと思って」「こうすればうまくいく」といった助言は、押しつけや自己満足になることがあります。
自分にはうまくいった方法が、必ずしも他者の成功につながるとは限りません。
時には押し付けとなり、相手の尊厳を傷つけたり、成長を阻害する要因になります。
例え、発言した者に悪気がなくてもハラスメントを否定する理由にはなりません。

上記で解説したようにハラスメントは様々な要因が絡み発生しています。
自身の組織のどこにひずみが生じているのか、課題点は何かを明確にし、より具体的に対策に取り組むことが大切です。
・実態調査や社内アンケートを行い現状の把握をする
(ストレスチェック80問120問にはハラスメントに関する設問があります)
・相談窓口に寄せられた相談の傾向を確認し分析を行う
・より具体的で自覚を促せるリアルな研修の実施
・多様性を包摂するための意識改革を目的とした教育の実施
・コミュニケーションの活性にフォーカスした施策
・互いを尊重する人権研修
こうした取り組みを地道に進めていくことで、ハラスメント発生リスクを軽減して頂ければと思います。

筆者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師

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