こころとからだの健康
思いやり行動とバレンタイン

皆さまがご存じのバレンタインデーですが、実は好意を寄せている人にプレゼントを贈るだけの行事ではないのをご存じでしょうか?
少し掘り下げて「贈る」「贈られる」行為について考えてみたいと思います。
バレンタインデーってなに?
バレンタインデーは2月14日に行われるイベントで、自身の気持ちを他の人に伝える日として知られています。
皆さまの中にもチョコレートをあげた、もらったというハッピーな経験がある人も多いのではないでしょうか。各国様々な形で行われていますが、特に日本では愛情や感謝を伝えるということで広く解釈され、家族や会社の同僚、クラスメイトなど様々な人を対象に贈り物を渡すように浸透しています。
最近では減少しつつあると言われている“義理チョコ”という言葉がありますね。
「ああ、本命じゃないのか」と中には落ち込む人もいるでしょう。義理チョコも視点を変えてみれば、恋愛事に限定せずに広く人間関係全般のこととしてみたとき「あなたと親しくなりたい」、「いつもありがとう」、「喜んでもらいたい」というようなメッセージとしても受け取れるので素敵なことではないかなと思います。
日頃の感謝の先にはその人の幸福を願う気持ちが込められており、対人関係をより深いものとする大切な気持ちであるといえます。
さて今回はこのバレンタインデーを機に、他者に対する“思いやり”について考えてみたいと思います。
思いやりとは
そもそも思いやりとは何なのでしょうか。
一言で定義することは難しいですが、日本の研究者である内田氏・北山氏は「“他者の気持ちを察し、その人の立場に立って考えること”、そのうえで“その気持ちや状態に共感もしくは同情する”こと、そして“向社会的行動の動機づけとなる”という三つの側面がある」と述べています。
これに類似の概念で昨今話題となっているものがコンパッションです。
コンパッション
他者の苦しみに気づいて、それを何とかしてあげたい、和らげたいと思う時に生じる他者への温かな思いやりのことをコンパッションと呼びます。これは共感のように他者の苦しみを代理体験として感じるのみならず、他者を気遣い幸福を願うという特徴があります。日本語では、慈悲や慈愛といった言葉で表されることもあります。
コンパッションは日常において様々な場面で生じると言われています。例えば、職場において同僚が仕事でミスをして落ち込んでいる状況を想像してみてください。
その人の頑張りをこれまで傍で見ていたのなら「辛いだろうな、あんなに頑張っていたのに。どうにかしてあげたいな」などと思うのではないでしょうか。そうした思いの根底にあるのがコンパッションです。
米国の心理学者、ジェイコブらは職場におけるコンパッションの在り方を研究しました。この研究では、同僚が苦痛な経験をした際に、周囲が気がつき共感的関心を持ち苦しみを和らげようとした行動が見られたことを示しました。そこでは、年齢や性別教育水準、社会的な地位に関わらず、それなりの頻度で思いやりの事例が見られたと言います。また、それは個人的な反応というよりも集団的な反応にみられたといいます。
そして、コンパッションを受けた人は組織に愛着を持ったり、信頼感が高まることがわかりました。
日常の小さな思いやり行動が個人に影響を与え、それが広がり、各々がコンパッションに基づく行動を起こすことで職場全体の雰囲気が良くなるということですね。
同時に、これはエドモンドソンのいう自分の意見を安心して言える状態である心理的安全性が高まることにも関連しています。お互いのスキルを認め合い、積極的なコミュニケーションが生まれます。
このように思いやりの連鎖は組織に肯定的な影響を与えることが分かりますが、どのようにすれば初めの一歩を踏み出すことができるのでしょうか。
自分への思いやり(セルフコンパッション)
他者への思いやりの土台には、自分自身への思いやりがあると言われています。それはセルフコンパッションと呼ばれます。米国の心理学者、ネフによって提唱された概念で、コンパッションを自分自身に向けることをいいます。これは単にポジティブな側面だけを見て、自分自身を励ますということではなく、自分の否定的な面も含めてありのままの自分自身を認め、優しい気持ちをもって受け入れるという状態です。
こちらを継続的に行うことによって、ストレスがかかっている状態でも安定して自尊感情を維持できるとされています。
このようにまずは自分自身にコンパッションを向けること意識してみましょう。
思いやりは生まれつきの性格によるというよりも、誰でも育てていけると言われています。小さな実践の積み重ねによって静かで小さな変化が起きていきます。自分自身の精神的な安定と周囲との人間関係の質を良好にする作用があると言われています。気長に続けていただければと思います。
● Jacoba M. lilius, Monica C. worline, Sally maitlis, Jason kanov, Jane E. dutton AND Peter frost (2008). The contours and consequences of compassion at work. Journal of Organizational Behavior J. Organiz. Behav. 29, 193–218.
● Neff, K. D.(2003)The development and validation of a scale to measure self-compassion. Self and Identity, 2 , 223-250.
● 内田由紀子・北山忍. (2003). 思いやり尺度の作成と妥当性の検討, 心理学研究, 第72巻, 第4号, 272-282.
筆者:パソナセーフティネット臨床心理士、公認心理師







