こころとからだの健康
オリンピックから学ぶ「アスリートのレジリエンス力」

冬季オリンピックが終了し、そして冬季パラリンピックも15日に閉会式を迎えます。
例え失敗に直面しても、その状況を受け止め、次の試合に挑戦するその姿に感動を覚えた方も沢山おられるのではと思います。
なぜ、アスリートたちはどん底とも感じられる極限の状況から立ち直り、次の試合に臨むことができるのか、今回は心理的な側面から読み解いていきたいと思います。
レジリエンス
人は大きな失敗を経験した際に、そのショックに打ちのめされ、なかなか気持ちが前向きにならなかったり、「もうどうにでもなってしまえ」と自暴自棄になったり、全てを諦めてしまったりすることもあるのではないでしょうか。
けれども私たちはアスリートらがそのような状況から立ち直り、チャレンジする姿を何度も目の当たりにしてきました。
アスリートの場合には、競技をするうえで身体的なパフォーマンスが重要であることは言うまでもないですが、心身相関ということを考えると失敗や敗北、怪我などを機に心の状態が荒れてしまえば、本来持っていたはずの力を発揮することも困難になってしまいます。ですが、これらを経験しないアスリートはいません。一流の選手であったとしても必ず直面している問題なのです。
レジリエンスとは
苦難に直面してもオリンピックという大きな舞台で結果を残してきた選手を思い出してみましょう。
1回目では結果がふるわなかった、これでメダルは難しくなったと思った、しかし次に目にした時には更に素晴らしいプレーを披露し、気づいたら大逆転をしていたという例は枚挙にいとまがないと言えます。
今大会においても、フィギュアスケートペアの代表選手である三浦・木原ペアは正にこうした場面を体現してくれました。
ショートプログラムの失敗に引きずられずに立て直し、フリーでの大逆転で見事金メダルを獲得しました。とても逞しいという印象を持った方も多いと思います。
このように辛いことがあっても、それにめげずに精神的な安定を取り戻すことが上手な人もいるのです。
いったい、この力は何なのでしょうか。これは心理学では“レジリエンス”という言葉によって研究が進んでいます。
“レジリエンス”は精神的な回復力を指す言葉で、様々な定義がありますが「困難または脅威的な状況にもかかわらず、うまく適応するプロセス、能力、あるいは結果のこと」(Masten et al., 1990)といわれています。
レジリエンスを構成する要素
レジリエンスを構成する要素として、ペンシルベニア大学のライビッチ博士は“レジリエンスコンピテンシー”(高い成果を出す人に共通する行動特性)というものを提唱しています。
これはa.自己認識、b.自制心、c.精神的柔軟性、d.楽観性、e.自己効力感、f.つながり、g.生物学的要素(遺伝子)、h.ポジティブな社会制度(家族、コミュニティー、組織など)の8つにまとめられます。
本番で結果を出す一流のアスリートたちを例にとれば、彼らは自己研鑽に費やした努力や培ってきた技術に自信をもっているともに、焦りや不安などの気持ちをコントロールする力もあると考えられます。
また、複雑な状況を理解し、それに適応していく柔軟性も兼ね備えているでしょう。
加えて、自分の力で結果は変えられる、その行動を自分は起こせるという感覚や、なるようになるさという前向きな気持ちもあることと思います。
そして、周囲には共に研鑽してきた仲間や厳しく指導をしながらも寄り添ってくれたコーチの姿が見られます。
こうして一流のアスリートを見てみると、心理学におけるレジリエンスの構成要素を高い水準でもっていることがわかります。
一方で、このレジリエンスはアスリートや特別な人にだけに関係がある概念ではありません。一般の方々が日常生活を送る上でもとても大切です。
レジリエンスを高めるには
アメリカ心理学会(APA)が公表している「レジリエンスを身につけるための10の方法」を紹介したいと思います。
APAによれば、
①人間関係を構築すること
②危機を乗り越えられない問題として考えないこと
③変えられない状況を受容すること
④目標を立ててそれに向かって進むこと
⑤断固とした行動をとること
⑥自己発見の機会を探すこと
⑦肯定的な視点を涵養(かんよう)すること
⑧長期的な視点を維持すること
⑨希望的な見通しを維持すること
⑩自分自身を大切にすること
が大切であると述べています。
例えば、①は職場の人間関係を豊かにすることや、相談しやすい就業環境を整えることとして応用できそうですね。
②と⑧と⑨については、一つのことしか考えられない視野狭窄状態の人と対話をしたり、多様な考え方を促してみるような認知行動療法におけるエリスのABC理論などが使えそうです。
③はどうにもできないことをどうにかしようとするから苦しくなるということですから、その解決法としてはマインドフルネスを実践してみることが有効そうです。
④、⑤に関してはモチベーションに関する自己決定理論や認知行動療法における行動活性化技法などが関係しそうです。
そして、⑦、⑩については、他人に優しくする際の思いやり行動をしている時の心持ちを自分自身に向けてみるセルフケアの一つである“セルフコンパッション”(自分への慈しみ)を知ることがよいのではないでしょうか。
このような形でレジリエンスという概念を知り、それを高める要因と具体的な方法を考えてみることで、日常生活でも有益な生活の智への理解を深めることができます。
ラインケアとして人事や直属の上司が工夫できるところもありそうですし、外部の相談窓口のカウンセリングサービスを利用することで、従業員が持っているレジリエンスに気づきをもたらし、それを発揮することにも役立つといえるでしょう。
今回はオリンピックで活躍していたアスリートの心のあり方に着目したことを機にレジリエンスについてみてきました。しかし、これはアスリートのみならず日常生活において、誰にでも関係する内容です。仕事での失敗や挫折、従業員同士の関係不和など、働く人も常にストレス要因に曝されています。ぜひ今回の内容を参考に、レジリエンスを見直してみてはいかがでしょうか。
筆者:パソナセーフティネット臨床心理士、公認心理師







