こころとからだの健康
実りの秋に「勤労」と「感謝」について考えてみませんか?

11月23日は「勤労感謝の日」です。古代日本の収穫祭である「新嘗(にいなめ)祭」の日に由来しています。 新嘗祭では、その年の収穫物を神々にお供えし、感謝を捧げる行事が行われました。 この伝統が戦後に形を変え、勤労そのものや経済活動の成果を祝う「勤労感謝の日」となりました。
そこで今回のコラムでは、「勤労」と「感謝」について考えてみました。
人は他者の勤労によって生かされている
勤労について
毎日の暮らしの中で衣食住を整えることは健康を維持するためにとても重要です。例えば、食事を摂るために、スーパーに行くと、新鮮な野菜、魚、肉が日々新しく陳列されています。更に様々な種類の調味料や、消費者の好みに合わせ、レンジでチンするだけで美味しく食べられるレトルト食品や冷凍食品もあります。
さらに寒暖に合わせ衣服を整えようと衣料品店に出向くと、しっかりした素材で作られたTシャツやボトムスもとても安価で売っていたりします。
家電量販店では、便利な最新機器がいろいろなメーカーにおいて製造されているのが分かります。
日常において使用している、水道、ガス、電気にも目を向けてみましょう。常にメンテナンスされ、蛇口をひねると当たり前に水は供給され、スイッチを入れると明かりが点きます。道路は舗装され、電車はほぼ定刻通りにやってきます。
こうして言い出すときりが無いほど、現代社会にはいろいろな商品やサービスが展開されています。
これは本当に素晴らしいことだと思いませんか。こうした品々やサービスを自力で製作したり整備するとなったら、どれだけの労力、知識、技術、設備が必要になるのでしょうか。全く想像もつきません。
これらは太古の昔には存在しなかった製品ばかりです。古代人はそれに触れる機会すらありませんでした。今普通に口にしている食品も中世には、高貴な人しか買えなかったものもあります。
食卓への登場の多い豆腐を例にとると、全国豆腐連合会によれば、日本において豆腐が庶民の食べ物となったのはなんと江戸時代のことだそうです。奈良時代に遣唐使によってもたらされましたが、希少性が高くてしばらくは貴族や武家しか食べることができませんでした。
現代社会においては、このような商品やサービスを比較的安価に手に入れられたり、享受できます。私たちがその恩恵に預かることができるのは、他でもない、それに携わってきた人たちがいるからです。
多くの人々が日常生活をよりよくすることを夢見て、必死で開発や普及のための努力をした結果なのです。お金があっても、それを使うことができなければ、それは“豊か”とはいえません。お金そのものに価値があるのではなく、それを使う先である商品やサービスが充実していることこそが豊かであるということなのでしょう。
また、あなたにとって特別な日をイメージしてみてください。家族とレストランで食事をする。大切な人にプレゼントを購入する。思い出作りでドライブする。クリスマスや年末年始などのイベント事もそうだと思います。サービスを求める人がいれば、必ずサービスを提供する人、商品を製造する人、運ぶ人が存在します。そこに働く人がいてくれるからこそ、その一日を素敵な日にすることができるのです。
こうして様々な視点で考えると、業態には一次産業、二次産業、三次産業と様々な仕事がありますが、全てが人々の生活をより豊かにするために存在しており、働くということは他人を豊かにするということに直結していることを実感せずにはいられません。
感謝はする方もされる方も幸せにする
感謝について
日々の営みが多くの人に支えられていると実感するとき、私たちは「感謝」の気持ちを覚えます。そして、それは実際に働いている人にとって、相当の支えになっていることでしょう。
多くの人は「ありがとう」と言われると嬉しい気持ちになります。自分がしたことで他人に幸せを与えられたと思えば自己効力感も高まるでしょうし、「ありがとう」という言葉自体が報酬になれば、更なる行動を喚起させる動機づけにもつながります。このように、感謝された側にポジティブな影響があることは理解できますね。
一方で、感謝という心理現象については様々な研究が進んでいます。
感謝研究の第一人者であるロバート・エモンズによれば、感謝することで幸福感が向上したり、孤立感や孤独感が低減するという心理的な効果や、免疫力の向上や血圧の低下などの身体的効果、外向性の向上などの社会的効果があるそうです。これらは感謝する側にもポジティブな影響があるということを示しています。
感謝する側がどのような実感を得るのか、それは日頃当たり前に思っていることも実は当たり前ではないのだと気づく時を想像するとより理解が深まります。
例えば、風邪をひいたり、けがをした時はどうでしょう。気怠さや痛みもない、身体も自由に動く、このような時はそれが当たり前ですから、そのありがたみがわかりません。しかし、いざそれらが損なわれると、これまであった当たり前は、実は当たり前ではなかったのだということに気づきます。
これは社会的な関係でも同様です。
行きつけだったお店が急に閉店してしまったり、お気に入りの商品が製造中止になったり、サービスが終了してしまったらいかがでしょう。その寂しさや残念な気持ちを感じるのはもちろんですが、存在してくれていた時のことを思い出し、暖かい気持ちになるのではないでしょうか。
また、自分を理解してくれる友人との別れの卒業式、新入社員で入社した時に丁寧にサポートしてくれた上司の異動、寂しさと同時に共に過ごした時間や親しみに感謝を感じることは多いと思います。
日々の生活の中で、人は多くを求めます。
こうなりたい、○○を手に入れたい、あれがやりたい、その願いを満たすことが幸せになることだと考えることもあるでしょう。けれども、大きな幸せの追求は、時に身近にある小さな幸せを見失ってしまうことにもつながります。
小さな幸せに敏感になる方法、それを可能にしてくれる一つが「感謝する」ということだと思うのです。
このようにみてみると、感謝はされる側だけでなく、する側も幸せになるという、ポジティブな相互作用が生まれる素敵な気持ちなのだということがお分かりいただけるかと思います。
11月23日は年に一度の「勤労感謝の日」です。
この一日だけ感謝しようということではなく、日頃当たり前のこととして見逃していることも、日々の暮らしの中で意識してみることに使っていただければなと思います。各個人がお互いに感謝し合うことで、より豊かな体験に発展していくことを願っています。
参考文献
「感謝」の心理学―心理学者がすすめる「感謝する自分」を育む21日間プログラム ロバート・A・エモンズ著/中村浩史訳 産能能率大学出版部】
筆者:パソナセーフティネット 臨床心理士、公認心理師











