こころとからだの健康

職場のメンタルヘルス ~サイコロジカル・ディタッチメント(心理的距離)をご存じですか?~

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「仕事を終えて自宅に帰宅しても、スマホに入るメールが気になってしまう」
「在宅勤務で就業時間を終えても、問い合わせの連絡が入る」
「明日の仕事のことを考えると不安が湧いてきて落ち着かない」
そんな経験はありませんか?

こうした仕事の物理的拘束、心理的拘束に関し、「サイコロジカル・ディタッチメント」という言葉に注目が集まっています。

「サイコロジカル・ディタッチメント(Psychological detachment/心理的距離)」とは?

この概念は、ドイツのサビーネ・ソネンターグ教授によって主に提唱され、注目を集めました。具体的には、仕事のストレスや疲労の回復には、仕事を終えて、物理的に仕事(職場)から離れるだけでなく、心理的にも仕事から離れることが重要であることを主張した考え方です。

仕事のことを常に考えている状況は、脳の疲労に影響があるばかりではなく、折角の休養時間も「休んだ気がしない」結果を生んでしまいます。

仕事に対する気がかりや不安は睡眠の質に影響

図表1 翌日の仕事への不安とその日の深い睡眠の関連性
(引用:労働安全衛生総合研究所:労働者の疲労と勤務時間インターバル
https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2015/81-column-2.html

疲労の回復には物理的距離で仕事から離れる、心理的距離で仕事から離れる、の両面があるかと思います。仕事の不安度が高ければ深い睡眠が減少する関係がこの研究から明らかになりました。

勤務間インターバルとは?

こうした研究が進み、EU諸国では「つながらない権利」として、労働者のメンタルヘルスを守るために導入されている勤務間インターバル制度があります。
この制度は、勤務終了後から次の勤務開始時までのインターバル(連続休息時間)を規定するもので、主な内容は、

1)24時間につき最低連続11時間の休息を付与すること
2)7日毎に最低連続24時間の休息日を付与すること
3)週の平均労働時間が時間外労働を含めて48時間を超えないこと

というものです。
この制度では、直接的に疲労の回復に重要なオフの時間を規定している点で、従来の労働時間規制に比べて、効果が高いものであると考えられます。
(引用:労働安全衛生総合研究所:労働者の疲労と勤務時間インターバル
https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2015/81-column-2.html

オンとオフをつけて疲労の蓄積を減らす

さらに、ドイツのある州では、勤務時間外の仕事やメールを禁じる「反ストレス法案」が検討され、従業員のストレス、疲労の軽減に着目しています。

一方で日本においては、徐々に「サイコロジカル・ディタッチメント」に対する関心が高まってきたとはいえ、長時間労働の問題は改善に至っていない現実があります。
このように、私たちは個人の選択や対処で、疲労回復や働き方が任されている状況から、現実に起きているストレスに対処するためには、自ら工夫をし、脳疲労を改善しなくてはなりません。

そこで、チームでできる工夫、個人でできる工夫に分け、予防や改善の工夫をご提案したいと思います。

チームでできる工夫
・相手の負担や状況を観察する目を持ち、思いやり行動を心がける
マナーを守り、就業時間の範囲で業務を行う
心理的安全性を高め、不安を軽減する

個人でできる工夫
・ストレス発散の対処法を複数持つ
例えば、
積極的休養(アクティブレスト)で脳の疲労を軽減する(注※1)
マインドフルネス(瞑想)を活用し不安反応を軽減する(注※2)
規則正しい生活を心がける
つながりを大切にする(注※3)

※1 積極的休養(アクティブレスト)とは、
有酸素運動で疲労を取る方法です。軽いジョギング、ストレッチ、ヨガ、水泳、ウォーキングなどの有酸素運動は、ストレスの慢性化を予防すると言われています。
身体を動かすことで血流の改善を図り、体内の疲労物質の排出を促します。また、セロトニンの分泌を促すことで自律神経のバランスも整える効果があります。
疲れを感じたときほど、ただ横になって過ごすのではなく、積極的に身体を動かしましょう。
参考:厚生労働省 休養・心の健康
https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b3.html

※2 マインドフルネスとは、
「今この瞬間」の現実に常に気づきを向け、その現実をあるがままに知覚し、それに対する思考や感情にとらわれないでいるこころの持ち方です。
(早稲田大学の熊野宏昭教授による『マインドフルネス入門』
https://www.nhk.or.jp/special/stress/02.html

※3 気がかりを口に出し、他者との関係性の中で発散する、相談する。自己開示性を高め、人とのつながりを保つことは孤立予防、不安の軽減、信頼感の醸成につながります。
ついつい仕事のことを考えてしまうとき、こうした対処法を試し、疲労の回復に努めていただければと願います。

筆者:公認心理士、産業カウンセラー

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