こころとからだの健康

職場のメンタルヘルス ~自分の感情をコントロールする「リアプレイザル」とは~

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人はプレッシャーを感じる場面に遭遇すると本来の実力が発揮できないことがあります。そんな場面で活用できる感情調整に「リアプレイザル」があります。

絶対に負けられない大事な試合の前、大きな商談の前などストレスや不安を感じたとき、ストレス反応を軽減し対処できる方法として、スポーツサイエンス界でも注目されています。

不安や緊張を和らげ実力を発揮する

リアプレイザルとは?
リアプレイザルとは英語表記で、Reappraisalと書きます。
re=再度 appraisal=評価
ですから、今の感情を再評価し新たな意味づけをする「認知的再評価」のことです。

「リアプレイザル効果」を提唱するハーバード・ビジネス・スクールのアリソン・W・ブルックス准教授は、300名の学生を対象に実験を行い、以下の結果を証明しました。
『圧倒的多数の人が、パフォーマンス前の不安に対処するには、落ち着こうとすることが最善の方法であると信じているが、落ち着こうとする人に比べて不安を興奮として再評価する人は、より興奮しパフォーマンスが向上する。』

ハーバード・ビジネス・スクールの実験
300人の被験者(学生)にオーディエンスの前でスピーチをさせます。
被験者を下記のような3つのグループに分けました。

1.リラックスのため「落ち着いて不安を抑えよう」と自分に言う
2.不安な気持ちを受け入れ「わたしは覚醒(ワクワク)している」と声に出す
3.何もしない

3つのグループのうち、2の認知的再評価をしたグループは、自信の度合いが上昇し、更に聴衆の評価も高く有能に見え、説得力が高い結果になりました。

アリソン准教授は、このような実験を「数学のテスト」「カラオケ」などでも実施し、いずれも認知的再評価を行ったグループの成績が良かったと証明しました。

不安を感じたり緊張したりするのは悪いことではない

防御反応する脳
わたしたちは脅威に遭遇すると、脳の扁桃体が即座に反応し、ストレスホルモンであるアドレナリン、コルチゾール、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を放出します。いわゆる、戦うホルモンです。

このホルモンは、心拍数を上昇させ、体が外敵に対して素早く反応することを助けます。
この身体反応に対する感情システムが「緊張」なのか「興奮」なのかを決めるのは、自分自身の「認知」です。

反応を再評価する
ストレスを感じる場面で、「心臓がドキドキする」「落ち着かない」など変化した身体反応を、「どうしよう、落ち着かなくちゃ!」「緊張する、深呼吸!」と考えても、不安な気持ちが収まらないことは実験で明らかになりました。

身体や感情の変化を再評価し、「興奮してきたぞ」「ワクワクしてきた」「さぁ準備は整った」「わたしは覚醒している」と認知を変えること。
反応をネガティブに捉えるのではなく、ポジティブに捉えることで取り除く必要がなくなり、むしろ前向きな反応として受け止めることで実力が発揮できるというものです。

自分の中に起きている反応を再評価し、言葉にして発することでネガティブな感情を変化させることができると実験で示唆されました。

リアプレイザルとリフレーミング

リアプレイザルは、身体反応から引き起こされる感情の捉え方を「再評価」するものです。嫌な体験をポジティブに捉え直すことで偏桃体の活動が低下することは、これまでの実験で示唆されたことはお伝えしました。

リアプレイザル(認知的再評価)と似たものにリフレーミングがあります。
こちらもストレスに対処する方法として広く知られた手法です。

リフレーミングは、自分の経験や積み重ねでできた「枠組み(認知)」を変え、別の視点で捉え直し、ポジティブな解釈ができるようにするものです。

どちらも再評価により認知を変えるというもので、うつ病の治療にも用いられる「認知行動療法」においても活用されています。
リフレーミングについても触れてみましょう。

リフレーミングとは

リフレーミングのステップ
リフレーミングには3つのステップがあります。
①まずは、目の前にある事実を否定せずに正確に捉えること
②次に、現状の枠組み(自分の解釈)を見つけ出します
③そして、別の枠組みを見つけ出し、捉えていきます

リフレーミングの種類は大きく分けて2つ
①人物、できごとなどの状況や背景など、置かれている状況のリフレーミング
②性格や悩みごと、経験などの内面に関するリフレーミング

リフレーミングの手法
さまざまなリフレーミングの手法の中から代表的なものをご紹介します。
①言葉フレームを変え柔軟性を高める「言い換え」手法
②過程や可能性を模索する「As IF」手法
③時間の枠を活用し別の発想を創造する「時間枠」手法
④クレームを解体し新たな視点を捉え直す「解体」手法
⑤どうなると良いかを投げかける「Want」手法

リフレーミングは行き詰った状況を変え、新たな視点を得るためのものですが、単にポジティブになれば良い、というものではありません。
目の前の状況をしっかり受け止めることから始めます。
自分にできる範囲で始め、練習を繰り返すことで身に付きます。

 


自信を高めるのも下げるのも、自分次第ということがお分かりいただけたでしょうか。

リアプレイザルもリフレーミングも、練習することでスキルアップが可能です。
ネガティブな感情を抑え込んだり、不安の解消にエネルギーを使うのではなく、認知を変えることを取り入れ、ポジティブな脳つくりに取り組んでいただければ幸いです。

 

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筆者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師

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