両立支援

「女性活躍」Part6 ~女性活躍を阻む「OBN」とは?~

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中々進まない「働き方改革」「女性の地位向上」。
低迷する「女性の管理職割合」には、どのような理由があるのでしょう。最近耳にするようになった「OBN」を含め、女性活躍について考えてみました。

オールド・ボーイズ・ネットワークをご存じですか?

ジェンダーギャップインデックス2022が公表
世界経済フォーラムが2022年7月に公表したジェンダーギャップ指数では、日本は調査対象国146カ国の中で116位とG7の中で相変わらずの最下位であり、項目別の順位においては、経済は121位、政治は139位でした。
同じアジアの韓国(99位)、中国(102位)より低い結果となりました。

【引用:男女共同参画局 「共同参画」2022年8月号】
https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2022/202208/pdf/202208.pdf

政府は2016年4月に「女性活躍推進法」を施行。「働きたい女性が個性と能力を十分に発揮できる社会」の実現を目指し、働き方改革を進めてきましたが、未だに大きく世界に遅れを取っています。
進まない女性の就労環境の改善には、様々な要因がありますが、一つに「OBN」が指摘されています。

OBN(オールド・ボーイズ・ネットワーク)とは
この言葉は英国発祥と言われており、元は上流階級間で出身校OB同士の情報交換や便宜を図るコミュニティを指す言葉でしたが、今では男性のみで構成された閉ざされた排他的人間関係として使われるようになりました。
明確な定義はありませんが、「男性中心の組織の中で作られてきた独特の文化や雰囲気、しきたり、仕事の進め方であり、非公式な人間関係や組織構造」を指します。

例えば、社内派閥、飲み会、業界内の勉強会、親睦団体、ゴルフコンペなどのネットワークであり、こうした閉鎖されたネットワークの中の人脈で、人事が決定されたり、暗黙の了解が作られたりすると言われています。
日本では特に度合いが高く、年功序列や終身雇用制度など、長く当たり前とされてきた日本の社会の構造が生んだものと言われています。

戦後、日本は敗戦国から立ち直り、復興、高度成長を遂げました。
日本の社会は、大きな成功体験を得たことで、世の中が大きく変化した今でも過去の慣習に囚われ、多様性や複雑性、新たな視点を取り入れられず、変容を拒んでいるように見えます。

専業主婦に守られたオールドボーイズ

高度成長期の当時、「24時間働けますか?」というコマーシャルのキャッチフレーズが流行しました。
当時の男性には自分の時間をある意味自由に使えるという社会背景がありました。夜の飲み会に出席する、休日ゴルフ、親睦に参加できる、育児や家事を気にせず、「仕事だから」「会社のために」という大義名分が通用し、家事・育児参加をしなくても専業主婦に守られ、家庭が成り立つという時代背景がありました。

40年前の1980年代では、サラリーマン共働き世帯は専業主婦世帯の半数以下であり、女性の社会進出が少なく、企業で働く人の多くは男性が占めていました。
男性は組織において「女性を排除している」と特に意識することなく、当たり前に意思決定をしてきました。けれども、現在は女性の社会参加が増え、労働人口の男女差は無くなりつつあります。
家事・育児は男女ともに負うべき責任であり、男女均等という意識が若い世代には当たり前に浸透してきました。

ところが、オールド・ボーイズの世代の中には、まだまだ無意識の男性目線の価値観があり、時代の変化に反し「女性活躍推進」の壁となっています。

マジョリティから対等へ

長い時間、マジョリティであった男性は、組織の意思決定に際して少数派だった女性労働者の意見に耳を傾ける経験が少なく、まだまだ配慮が足りません。多くの男性には、排除や差別している意識がなく、矛盾に気が付かず、認識が欠如していたということなのでしょう。
けれども、こうした認識の欠如は、差別を助長することに繋がります。

例えば、
・オフィスの平均温度は、男性中心であり女性の適温より平均で2.8℃低い
・女性不参加の場で行われる親睦会、飲み会、コンペ、喫煙所での会話など
・「女性のくせに、、、」「女性だから、、、」のアンコンシャス・バイアス
・遅れている女性の健康課題への取り組み
・男性標準に設計された乗り物(シート、ペダル、ヘッドレスト)による女性の身体への負荷
・病気治療、薬の開発など医学研究は性差を無視して「男性が標準」として行われているため、女性は病気の発見が遅れたり、薬の副反応に苦しんだりといった弊害

無意識化で行われるこうした慣習、マジョリティであったからこそ、社会の中で少数派とされてきた女性の負担やリスクが意識に上がることがなかったのでしょう。
けれども、こうした慣習や古い常識が生産性を下げ、女性活躍を阻み、企業成長を妨げていることが様々な研究で明らかになりました。

女性の社会進出のメリット

OECD 男女間の格差と労働力に関する分析 “Closing the Gender Gap: Act Now”によると、
・女性労働参加率が男性並みになると、2030年までの労働力は殆ど低下しない
・労働参加率の男女格差が解消すれば、今後の20年で日本のGDPは20%近く増加する
と予測しています。

女性活躍の推進には、女性の管理職割合を上げることが指摘されており、政府は2020年代に可能な限り30%程度になることを目標としています。日本での女性管理職の少なさは、男女の賃金格差の要因となっていることが指摘されており、女性管理職割合が増えることで賃金格差は徐々に埋まり、またロールモデルの存在が増えていくことで、更なる女性管理職の増加に繋がることでしょう。

そのためには、女性が出産後も働ける環境を整えること、社内会議やプロジェクトなどの男女割合を見直し、参加率を公平にすることなどが挙げられます。

「OBN」を「変えられる行動10か条」

NPO法人「J-Win」が作成したOBNを変えられる行動10か条をご紹介します。
組織全体への教育、意識改革が大切です。

【変えられる行動10か条】

第1条:行動(成功体験)の押し付け
成功体験はあなたの宝物として心にしまっておきましょう第2条:上司への忖度
上司の顔色よりも部下の行動の成果を見ましょう第3条:男女間の不公平
仕事の進めやすさ、振りやすさに関係なく、平等に仕事が分担できるよう、マネジメントしましょう

第4条:傾聴がない
話の腰を折らず、最後までしっかり聴きましょう

第5条:理解不足
一人ひとりの仕事に対する価値観を尊重しましょう

第6条:放置
仕事の目的、背景をしっかり説明した上で、部下に仕事を任せ、伴走しましょう

第7条:男性固有のネットワーク
部下から誤解を招くような固有のネットワークは避けましょう

第8条:男性固有のイベント
物事はオープンな場所で決めましょう(喫煙所、飲み会、ゴルフ場等では決めない)

第9条:生活リズムの男女差
・歩行や食事のスピードに配慮しましょう
・冷房のかけ過ぎに注意しましょう

第10条:合間(ランチタイム、移動時)の使い方
歩行中もランチタイムも(部下との)貴重なコミュニケーションの機会と捉えましょう

出典:「特定非営利活動法人ジャパン・ウィメンズ・イノベイティブ・ネットワーク」(NPO法人 J-Win)
https://j-win5.jp/wp/wp-content/uploads/N37_202101.pdf

労働者人口の男女差がなくなる時代はすぐそこまで来ています。
女性労働者の活用は企業にとり戦略のひとつです。女性活躍の更なる実現には、男性労働者の意識改革と同時に女性労働者自身の意識改革も求められます。

日本では諸外国に比べ、女性の社会進出が遅れたためにキャリアのアンコンシャス・バイアスが働くと言われ、女性自身が可能性を狭めてしまうことがあると言われています。また、ロールモデルとなる女性管理職の不足は、昇進を望んだときに不安の材料となることがあるかもしれません。

さらに、女性の健康課題、育児と仕事の両立を支える制度、上記に示したOBNに対する行動変容などに対し、組織全体の課題として捉え、教育、意識改善を目指して頂ければと思います。

 

参考:
「特定非営利活動法人ジャパン・ウィメンズ・イノベイティブ・ネットワーク」(NPO法人 J-Win):
https://j-win5.jp/
「Global Gender Gap Report 2021」:
https://jp.weforum.org/reports/global-gender-gap-report-2021/
「男女共同参画局 「共同参画」2022年8月号」:
https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2022/202208/pdf/202208.pdf
「存在しない女たち」キャロライン・クリアド=ペレス 神崎朗子訳
河出書房新社

 

筆者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師

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