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多様化する「働き方」と「採用」について考える

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多様化する働き方により、離職や転職が当たり前の社会となり、定年まで働く労働者は減少傾向にあります。特に若年層の離職率の高さから、採用や定着にご苦労をされている人事担当者のご苦労を耳にすることが多くなりました。
こうした社会の変化に伴い、採用の形も多様性が求められるようになっています。

少子化の進行による労働人口の減少は深刻

少子高齢化の進行により、我が国の生産年齢人口(15-64歳)は1995年をピークに減少しており、2050年には5275万人に減少すると見込まれています。
これは、2021年から29.2%も減少するという深刻な状況です。

厚生労働省離職率調査の結果から
厚労省の新規学卒就職者の離職率調査によると、令和2年度は例年に比べ低下しています。
就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者で36.9%、新規大卒就職者で31.2%でした。低下したとはいえ、新規就職者の3~4割が離職してしまう現状は、採用する企業にとっては厳しい状況です。

離職率は、業種によって違いがあり、離職率の高い上位5産業は、宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業・娯楽業、教育・学習支援業、小売業、医療福祉でした。
こうした上位の産業の中には、5-6割が離職してしまう産業もあります。
また、会社規模で離職率をみると、大企業、小規模の事業所と比べ、「100-299人」規模の中小企業の離職率は常に高いまま推移しています。

中小企業の工夫
こうした人材不足の状況の中、中小企業では採用に様々な工夫を凝らしているようです。人事担当者の声の一部をご紹介します。

・そもそも新規卒業者人材は集まりにくいのが現実。新規卒業者より、むしろ「キャリア採用(中途採用)」に力を入れている
・新規卒業者よりキャリア採用の方が定着率が若干良いように思う
・今いる社員から候補者を紹介してもらう「リファラル採用」を社員に周知している
・一旦、転職目的で退職された社員を再雇用する「アルムナイ採用」を積極的に受け入れている
・定年退職の社員を再雇用し、嘱託社員として雇用している
・高い技術を有する社員、多くの人脈を持つ社員は、70歳を超えても本人が希望する限り採用を継続している
・これまで男性社員が多く従事していた業務に女性を積極的に採用している
・ジョブリターン制度を周知し、女性活躍を推進している

上記の採用方法について、「自社でも取り入れている」「導入していない採用方法がある」「耳慣れない言葉がある」などご感想は様々でしょう。

新卒採用、キャリア採用が最も多い採用方法ですが、近年、耳にすることが多い「リファラル採用」、退職した労働者を再度採用する「アルムナイ採用」、定年退職した労働者を延長する「再雇用制度」、女性活躍を意識した「ジョブリターン制度」など、働き方の多様性、労働人口不足から、様々な工夫、取り組みが見られます。

ミスマッチが少ない「リファラル採用」とは

リファラル採用とは、自社の社員をはじめ社内外の信頼できる人脈(知人・友人)を介した採用手法です。

リファラル採用のメリット
「社員紹介制度」と呼ばれることもあり、企業の業務内容を理解した従業員からの紹介、採用であるため、マッチングミスが少なく定着率が比較的高いと言われています。
紹介者と候補者の事前情報の共有があるため、入社後のリアリティショックが少なく、離職率も低い採用方法と言えます。

従業員を介したリファラル(紹介・推薦)であり、自社採用のため、求人広告、転職エージェント料が発生せず、コストを抑えることができます。
また、転職市場では見つからない潜在層へのアプローチが可能です。

リファラル採用のデメリット
紹介された応募者が不採用だった際に、紹介者に対して説明を求められることもあり、気まずさが残ることがあります。
不採用結果にしないためには、どの様な人材を求めているのか、どの様なスキルが必要なのか、など採用条件を事前にしっかり伝えておくことが求められます。紹介者の理解がうすい場合、ミスマッチが起きる可能性があります。

また紹介した社員が先に退職した場合、リファラル採用した従業員も退職を考えてしまうといったリスクもあります。
紹介された社員が入社後に「居続けたい」と実感するよう、スキルを生かした活用、モチベーションを低下させないサポートが求められます。

近年注目度が高くなった「アルムナイ採用」とは

本来、アルムナイとは「教育機関の卒業生」を指す言葉でしたが、近年では「企業の離職者・退職者」という意味で広く使われるようになりました。
「カムバック制度」、「出戻り制度」などと呼ばれることもあります。

アルムナイの印象が変化
一旦、退職・離職した従業員に対して、以前は「辞めた人」「去った人」としてネガティブな印象がありましたが、価値観の変化、社会の変化から、「外での経験を積んだ人」「他で学んだことを共有できる人」など次第にポジティブな印象に変わってきています。

株式会社リクルートが公表した「企業の人材マネジメントに関する調査2023」によると、アルムナイネットワーク採用は12.3%でした。
アメリカでは主要企業の9割に関連制度があるとの調査結果もあります。日本では、外資系以外の企業では制度として導入している企業は少ないものの、製造業、金融など大企業では広がりを見せています。

アルムナイ採用のメリット
最大のメリットは、応募者はすでにその企業で勤務した経験があることですから、入社時の人材育成コストが削減できることや、即戦力の強みがあります。
自社の知識のない人を採用することに比べ、組織社会化がすでに為されているため、独り立ちまでの教育、時間が削減できます。

一度外部に出て「別の視点」を身に付けて成長し、新たな資格取得をなされた方がいたり、他者目線から以前の組織を見直し、自身のたな卸しを終えている人もいるでしょう。新たに「元の職場で働く意味」を見出した人です。

一旦、退職された人が戻ってくるにはそれなりの理由があります。企業に対する愛着や新たな動機づけがなされています。これまで培った人脈やスキルの発揮も期待できます。

アルムナイ採用のデメリット
他者視点を取り入れ、外部の刺激を受けたことで、既存従業員とのギャップが生じることもあるかもしれません。また、いったん退職しても「復職できる」と考える従業員が出てきてしまうリスクも想定できるでしょう。
アルムナイ採用の条件の明確化、募集要項や多様な価値観を受け入れる環境つくりも必要です。

女性活躍を推進するジョブリターン制度とは

育児や親族の介護、配偶者の転勤など「やむを得ない」事情で退職した社員が復職を希望した際に、再雇用する社内制度を指します。

ジョブリターン制度のメリット
諸事情により退職を余儀なくされた社員の中には、「継続して働きたい」「辞めないで働きたかった」と感じている人も少なくありません。

介護や育児で仕事を辞めキャリアの中断があったとしても、再雇用の可能性があれば、その後のワークライフバランスの充実が図れるでしょう。
ジョブリターン制度があることにより、時代に即した女性活躍を促進しますし、自社への信頼やエンゲージメントは向上するでしょう。
福利厚生としての役割も果たし、企業のイメージアップにもつながります。

また、上記二つの採用方法と同様に、ジョブリターン制度も運用コストの削減が可能です。離れていた期間にもよりますが、新人採用と比較しても独り立ちへの時間は短縮できます。
加えて、企業に対する信頼、愛着の醸成にも繋がります。
(東京都であれば「育児・介護からのジョブリターン制度整備奨励金」を申請できるので、より運用コストを削減することも可能です。)

ジョブリターン制度のデメリット
ブランクのある人材を再雇用することで、処遇に対し既存の従業員が不満を持つ可能性も出てきます。頑張ってきた既存の従業員の不公平感が生じないよう、基準や処遇についてルール作りが大切になります。

アルムナイ採用でもお伝えしましたが、ジョブリターン制度に関しても、「一度辞めても再雇用が可能になる」という意識が醸成されてしまうことは避けたいものです。
継続して働き続けようとするモチベーションに影響がでないよう、制度の目的やルール作りが重要です。

職場から離れていた期間が長い応募者については、改めて社内ルールの確認、業務内容のアップデートなどを行う必要があります。募集要項など採用条件も明確化しましょう。
折角制度を利用したにもかかわらず、大きなギャップに直面することがないよう、教育などの制度も採り入れることも大切です。

 

多くの従業員が離職する際の理由に挙げているのは「職場の人間関係」「業務内容の不適応」「労働条件・休日・休暇の条件」等です。
リファラル、アルムナイ、ジョブリターンなどの制度は、「業務内容の不適応」は比較的少ないと言われていますが、「人間関係」については、既存の社員との不公平感が生じないよう、制度を利用する際のルール作りが大切です。

上記でご紹介した採用制度を取り入れている日本企業は欧米に比べ限られていますが、労働人口が減少する中で、優秀な人材確保を求める企業にとってメリットは少なくないと考えます。

ご紹介した制度の根本にあるのは、組織に対する信頼と愛着です。
「戻りたい」と思える組織か、知人や友人に自信を持って「紹介できる」組織か、
組織と従業員の基本的信頼が構築できているかが問われます。

労働人口が減少する中、柔軟で魅力ある職場づくりを目指していただければと思います。

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