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就活ハラスメントを知っていますか?

就活ハラスメントは、立場の弱い学生等の尊厳や人格を不当に傷付けるなど、人権にかかわる許されない行為です。厚生労働省は「労働施策総合推進法及び男女雇⽤機会均等法に基づく指針において、就活ハラスメントの防止措置を行うことが望ましい」と明記しています。
就活ハラスメントとは
就活ハラスメントとは、就職活動中やインターンシップの学生等に対するセクシャルハラスメントやパワーハラスメントのことを指します。
自社の社員が就活ハラスメントの行為者になると、その影響は多岐にわたります。
就活ハラスメントの影響
・社会的信用の失墜
ハラスメント防止法の制定以降、ハラスメントに対する意識は向上しました。自身が受けた行為がハラスメントに該当すると認識した場合、その状況を発信する人も少なくありません。「就活ハラスメントをする社員がいる会社」「就活ハラスメントを起こした会社」として企業の社会的信用を失ったり、大きなイメージダウンになるリスクがあります。
・応募する学生が減少するおそれがある
多くの情報がネット上で拡散される社会背景から、ハラスメント行為が行われる企業として認識されると応募する学生が減少するリスクとなります。既に採用した従業員の愛社精神が低下するだけでなく、「良い学生を採用したい」という希望も叶わない厳しい現実に直面する可能性があります。
・自社の従業員への影響
ハラスメントは「非生産的行動」です。
非生産的行動は、組織や被害者だけではなく、目撃者にも悪影響を及ぼすことがわかっています。ハラスメント対策をしっかり行わないことは、自社の社員全体の生産意欲を低下させ、また社内のモラルの低下につながります。
参照:2024/12/16 HRコラム【組織に貢献し、見返りを期待しない「組織市民行動」は、組織や職場の潤滑剤に】
就活ハラスメントの4人に1人がセクハラを経験!
厚生労働省の実施した調査結果(「令和2年度職場のハラスメントに関する実態調査報告書」)により、就活ハラスメントの被害を受けた学生は4人に1人という、驚くべき結果が明らかになりました。
就活ハラスメントの行為者は誰なのか?
令和2年度に厚生労働省が実施した「ハラスメントに関する実態調査報告書」調査結果で見ていきましょう。発生率の高いセクシャルハラスメントについて調査しています。
インターンシップ、採用面接担当者、企業説明会、OB・OG訪問した従業員など多くの社員が、以下の場面において、行為者になるリスクが高いことが分かります。
どの様なハラスメント被害を受けたのか?
実際に行われた行為の詳細を確認すると、どのような態様がセクシャルハラスメントに該当するのかを知らない担当者が多く存在するのでは?と思われます。
例えば、性的な事実関係に関する質問においては
「付き合っている彼氏はいるの?」
「結婚後も働き続けたいですか?」
「出産した後も継続して働くつもりはあるの?」
などの質問を女性学生にだけ行うことは、男女雇用機会均等法(募集・採用に関する性差別禁止)に触れる質問です。
立場の優越性を利用した、
「インターンシップ、お疲れ。食事でもしながらゆっくり話そう」
「今度、二人で出かけない?」
「エントリーシートのチェックをしてあげるから、うちに来ない?」
などの食事やデートへの執拗な誘いは、相手の弱い立場に付け込んだハラスメント行為に該当するリスクがあります。
また採用の見返りに不適切な関係を迫り、拒絶されたことに対して「うちの会社には絶対に入れないからな」などの言動を行うことは対価型セクシャルハラスメントに該当します。
セクシャルハラスメント以外の就活ハラスメント
就活終われハラスメント(就活オワハラ)
就活オワハラは、自社の内定を出すことを条件に、就活生に対して他企業からの内定を辞退するように迫る行為です。
「ウチは内定だすから他社の候補選びはしないでね」
「就活をしないなら内定はだすよ」
こうした発言は、憲法で定められている職業選択の自由、労働者の権利を奪う行為であり、倫理的な問題になります。
圧迫面接
圧迫面接とは、面接担当者が意図的に厳しい質問を投げかけたり、畳みかけるように質問を続けたり、否定的な態度を取ることで、
① ストレス耐性をはかる
② コミュニケーション力を確かめる
③ 問題解決能力を知る
④ 対応力、瞬発力を観察する
⑤ 本音を聞き出したい
などを確認することを目的とした面接手法です。
この手法を使う担当者はまだまだ散見されますが、適切な範囲を超えてしまうと、学生を不安にさせたり、時には恐怖心を与えることもあります。
「あなたが言う長所は、社会人なら持っていて当たり前で特に長所とは言えないね」
「部活もせず、4年間空いた時間をどうしていたの?」
「その志望理由なら、ウチじゃなくても○○社や○○社だっていいでしょう?違いますか?」
「あなたを採用する最大のメリットは何?どう貢献できるのかな」
「今日、ここに来た意味ある?」
「募集要領、読んできたの?理解してる?」
こうした人格否定に当たるような言葉の使用やあからさまな否定、高圧的な態度は、労働基準法2条や3条、パワハラ防止法に該当する可能性があり、リスクと言わざるを得ません。

自社の従業員を「就活ハラスメントの行為者」にしないために
ハラスメント発生の要因は様々です。企業は自社の従業員をハラスメント行為者にさせないための予防措置が求められます。具体的な対策を実施していきましょう。
就活ハラスメントを防止する具体的な対策とは?
・基本方針を明確にする
採用担当者は勿論のこと、全従業員に対してすべてのハラスメントを禁止する方針を明確にしましょう。
・社内規定や懲戒処分等の規則を設ける
就活ハラスメントを行った場合には、行為者を処分する社内規定を設け、規則を全社員に周知しましょう。また、リクルーターへの行動指針やマニュアル、ガイドブックを策定することも有効です。
・教育、研修の実施
行動指針やガイドブック、マニュアルを用いて教育や研修の実施を行います。自社に発生しやすいリスク、また過去に発生したケースなどを基に、より具体的で自分事として捉えられる研修やディスカッションを通じて理解を深めます。
・就活生へのサポート
就活生に対して、自社の取り組みを記載したマニュアルを作成し、ハラスメント予防対策、取り組みの理解の促進を行います。また、万が一、就活生が自社の従業員からハラスメント行為を受けた際に相談ができる窓口の設置をし、メンタルヘルスを含めてサポートします。
就活生からの相談窓口を設けることは、自社内へのハラスメント防止意識の向上に繋がります。

採用担当者を含め、就活に関わる従業員は、その立場の優越性から、人の人生を左右するという全能感や優越感を持ちやすいと言われています。
役割や立場で得られたパワーを自らの力と勘違いし、優越性を発揮したり、権力意識を持ちハラスメント行為に及ぶことがあります。
また、採用担当者の業務量は増加します。疲労の蓄積はメンタルヘルスへの影響も懸念されますから、こうしたメンタルヘルスの視点も取り入れた対策を講じていただければと思います。
筆者:パソナセーフティネット産業カウンセラー、公認心理師