両立支援

働きながら介護をする「ビジネスケアラー」が増加 ~介護と仕事の両立支援はできていますか?~

2024/03/01
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団塊ジュニアが直面する「2025年問題」では、国民の6人に1人が後期高齢者になると予測されています。働き盛りの40代がビジネスケアラーになり、介護問題は、企業にとり「経営問題」になりつつあります。

ビジネスケアラーの増加

経済産業省は、超高齢社会の日本において、仕事をしながら家族の介護に従事する、いわゆるビジネスケアラーの数は、ピークを迎える2030年時点で約318万人になると推計しています。

引用:令和4年度ヘルスケアサービス社会実装事業 (サステナブルな高齢化社会の実現に向けた調査) 概要報告書 2023.3.24 株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門

また、介護発生による労働者の生産性低下等が日本全体に与える経済的損失額は、2030年時点で9兆1,792億円と推計されており、政府として、喫緊の対応が必要としています。

引用:令和4年度ヘルスケアサービス社会実装事業 (サステナブルな高齢化社会の実現に向けた調査) 概要報告書 2023.3.24 株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門

「個人の課題」から「みんなの話題 」へ(経済産業省)

ビジネスケアラー本人へのアンケート調査では、介護しながら仕事を続けるための企業からの支援について「あまり支援されていない」「全く支援されていない」は合わせて41.0%。
一方、仕事量、パフォーマンスの変化についての平均値を見ると、(十分に・多少は)支援されているとする人の仕事量・パフォーマンスは、(あまり・まったく)支援されていないとする人のものより高い傾向がみられます。
つまり、企業における「介護しながら仕事を続けるための支援」は仕事量、パフォーマンスの低下を抑える効果があるものと推察されることが分かりました。

介護と仕事の両立実現に向けては、職場・上司の理解が不足していることや、両立体制構築に当たっての初動支援が手薄いこと、介護保険サービス単体ではカバー範囲が限定的であること等が課題として挙がり、従業員個人のみでは十分な対応が困難な状況です。

経済産業省は、介護を従業員個人の課題ではなく、組織全体の話題とする「OPEN CARE PROJECT(オープン ケア プロジェクト) 」を2023年4月に発足させました。
(参考:経済産業省 ヘルスケア事業 介護政策)

令和5年度中に企業向けの指針を策定

経済産業省では、仕事と介護の両立を支援することで離職の防止や働きやすい環境に繋げるために、企業向けの指針を今年度中に策定します。

指針には、
①介護に関する相談窓口の設置
②費用の助成
③上司をはじめ、会社側の理解を深める研修
などの対応策を盛り込むことにしており、企業に取り組みを促したい考えです。

企業の認識と実態のずれ

5~6割の企業は実態を把握していない
経済産業省の調査によると、従業員の現時点での介護状況について、5~6割の企業で把握していないことが分かっています。また今後も把握する予定がない企業は約7割に上り、社内外の専門窓口の設置をしている企業は僅か1割程度です。

けれども実際には、ビジネスケアラーの数は増加しており、2025年時点では、働き盛りの45~49歳の17.9%がケアラーになるとの予想があります。

引用:令和4年度ヘルスケアサービス社会実装事業 (サステナブルな高齢化社会の実現に向けた調査) 概要報告書 2023.3.24 株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門

 

介護リテラシーを高める
介護への認識は、「まだ先のこと」「始まっていない」など他人事として受け止めている人が多いことは知られています。けれども介護は突然始まります。実際には活用できるサービスを知らなかったり、サポートを得られず苦労されたりしている方もおられます。

更に、介護が発生していても「迷惑をかけたくない」「大げさにしたくない」「評価に響く」「打ち明けるのに抵抗がある」「誰に話したらよいか分からない」などのそれぞれの理由から一人で抱え込み、周囲に語られないことが多く、顕在化した時には介護疲れからメンタルヘルスへの影響が出ていたり、離職につながったりすることもあります。

総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」の結果によると、2022年度に介護・看護のために前職を離職した者の数は、10万6,000人でした。
ビジネスケアラーは働き盛りの世代が多く、離職による労働力の減少、生産性の低下は予防しなくてはならない喫緊の課題です。

企業は、積極的に情報の発信を行い、介護を自分ごととして捉えられる介護予防のノウハウや事前にできる準備、介護に対する不安の解消を目的としたセミナーの実施や相談体制の整備を行いましょう。

介護はある日突然に発生する

介護のきっかけ
要介護認定を受けたきっかけについて、厚生労働省の「国民生活基礎調査の概況」によると、認知症、脳血管疾患、骨折・転倒、高齢による衰弱が挙げられます。
脳血管疾患(脳卒中)や骨折・転倒は突然発生することが多く、離れて居住している中でこうした事案が発生した場合、病院や警察、ご近所の方の連絡などで知ることもあるようです。

介護の相談例
ケースを少しご紹介します。

Aさん(40代男性):
実家の玄関で父親が転倒しているのを近所の人が発見し、救急車を呼んでくれた。実家で一人暮らしをする父親の衰えには何となく気が付いていたが、「まだ大丈夫だろう」「今すぐ介護ではないだろう」と思っていた(思いたかった)。

連絡をもらい、直ぐに病院に駆け付けたが、大腿骨を骨折しており長期の入院になりそう。実家での一人暮らしはもう無理と思うが、実家は地方で、介護と仕事の両立が難しい。経済的理由からも介護離職はしたくないし、共稼ぎの妻にも負担をかけたくない。他に身内はおらず、途方に暮れている。

Bさん(50代女性):
この1年ほど、母親は同じことを何度も訊いたり、鍋を焦がしたりしていたが、都度確認すると本人が「ちょっとうっかりしただけ」という。

昔からのかかりつけ医からも「特に心配はない」と言われていると本人は言うし、まだボケる年齢ではないと思っていた。「年相応の反応なのでは?」と自分で良い方に解釈をしていたが、数か月ほど前から午後になると仕事中に母親から電話がかかるようになり、明らかに混乱した意味不明の内容を話すようになった。

仕事に集中ができないし、このような状態の母親をまずは何科に連れていけばよいのか、誰に相談すればよいのか、本人が受診したがらない場合は、どうしたらいいのか、不安が募り悪い方にばかり考えがいってしまい気持ちが落ち着けない。

 

上記の2つのケースように、「うちはまだ大丈夫」という思い込みで、介護問題から目をそらしている方も多く、比較的事態が悪化してからのご相談が多いようです。
介護の可能性を感じつつも何も準備をしていない相談者が動転したり、困惑したりする気持ちがご相談から伝わってきます。

介護に関連する知識を得るタイミングは?
介護問題を個人だけの課題として捉えず、組織全体の理解を深めることは今後の介護課題に向き合うために大切なことはもちろんですが、介護は個別性が高く、また個々による背景や事情が違います。そのためには事前の準備、介護リテラシーを高めておくことが重要です。

自身が40代に入り介護保険料を納めるタイミングや、親が前期高齢者となる65歳になったタイミングで、介護についての知識や準備しておくことを纏めておいたり、親子で話し合いをしておくことをお勧めしています。

事前に知っておくべき知識とは?

組織のサポートを確認
介護休業・介護休暇、時短勤務といった介護支援制度の確認。
自社の就業規則に定められた独自の介護支援制度などもあれば、申請方法など確認をしておきましょう。

自治体のサポートを調べる
「介護かな?」と思ったら「地域包括支援センター」への相談がスタートです。
地域包括支援センターは、介護に対する「備え」の段階から介護支援まで幅広く相談を受けています。地域包括支援センターを上手に活用することは、介護予防の早期着手となります。

地域包括支援センターの役割
地域包括支援センターは、介護・医療・保健・福祉などの側面から高齢者を支える総合窓口です。専門的な知識を有した職員が、高齢者が居住する地域で生活ができるように介護予防、介護サービス、保健福祉サービス、生活支援などの相談に応じています。

また介護保険の申請窓口も設置しています。
人口2~3万人の日常生活圏域(一般的には中学校区域)を1つの地域包括支援センターが担当しています。(令和6年1月現在5,404箇所)
(参考:厚生労働省 地域包括ケアシステム)

企業内窓口担当者の役割とは
介護相談は個別性が高く、それぞれのベストを助言することは難しいでしょう。相談を受ける立場の役割は、介護ストレスを受け止め、必要なサポート情報を提供する橋渡しです。

また事前の教育・研修も初動で混乱しないために大切です。
介護を行う可能性に関する認識の醸成、啓蒙活動。就業規則や受けられる法的制度の説明、介護状況の把握に努め、必要に応じて上司や周囲に相談できる環境づくりを行います。

仕事と介護の両立には、正しい情報の収集、事前の準備、知識が大切です。ビジネスケアラーが一人で抱えこみ、孤立が高まると離職やメンタルヘルス不調につながります。

介護離職の予防には、企業、自治体、医療などのそれぞれの役割を理解し、活用することが肝要です。介護が始まったときに慌てることがなく、対応することができると混乱による心身の負担も最小限になるでしょう。

両立を支援するためには個々の「備え」のチカラを醸成しておくこと。組織は啓蒙、相談窓口、教育など様々な準備をしていきましょう

 

筆者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師

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