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知識を引継ぎ属人化予防!今、必要とされる「ナレッジマネジメント」

2024/02/15
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先人たちが退職される際、これまで培ってきた個人が持つ経験、ノウハウ、スキルなども退職とともに失ってはいませんか?
ベテラン社員の持つ属人的な知的資源を他の従業員と共有することができれば、組織全体のスキルアップに繋がります。
これまで失われてきた知的資源を利用する方法に「ナレッジマネジメント」があります。

ナレッジマネジメントとは

ナレッジとは、「知識」「知見」などの意味を持つ「knowledge」が語源の和製英語です。人から聞いた話、本で呼んだ知識、事例、有益な情報、付加価値のある経験、体験に基づいた知識、スキル、ノウハウなどの意味合いを含みます。
人それぞれに培った属人的な知恵がナレッジですが、このナレッジを企業成長の重要な要素として組織全体で共有し、ビジネスの現場で有効活用することがナレッジマネジメントと呼ばれる経営手法です。「知識管理」「知識経営」と訳されます。
著名な経済学者であるピーター・ドラッガー氏は、専門的なスキル、ノウハウなどのナレッジを持ち企業価値を高めてくれる人材を「ナレッジワーカー」と称し、概念を提唱しました。

ナレッジマネジメントの目的は、組織力の強化、生産性の向上、知恵の伝承、業務の効率化などです。ナレッジワーカーの持つ知識を失わず、更に発展させていくナレッジマネジメントについて解説します。

ナレッジマネジメントの基礎理論「SECIモデル」

ナレッジマネジメントを実践する際には、個々に持つ「暗黙知」を「形式知」と変換する「SECI(セキ)モデル」をとり入れることが有効で効果的と言われています。

「SECIモデル」とは

SECIモデルは、ナレッジマネジメントの基礎理論として、1990年代に一橋大学名誉教授である野中氏、竹内氏により提唱されました。
個人が持つナレッジを組織でいかに共有していくかを体系化したものです。

SECIモデルを活用する

用語の理解
SECIモデルの活用において、まずは理解すべき用語があります。
「暗黙知」と「形式知」です。解説して参ります。

暗黙知とは
所謂、言語化され難い「職人技」「熟練技」であり、経験豊かな人が持つ「職人の勘」などの感覚的な知識など、人には中々伝えられない主観的ノウハウでありスキルを指します。
歴史のある武道、「一家相伝」「一子相伝」、奥義や先祖代々の特別な知識を受け継いでいくなど、他言無用の暗黙知がありました。

現在も昔ながらの職人技など、簡単に伝承ができないスキルなどを必要とされる仕事はあります。
例えば、古来の建築方法を守っている宮大工の世界などその一つでしょう。
そうした技術、暗黙知を失わず後世に残すために、奈良県などでは「宮大工の県職員」という制度を作り、暗黙知を受け継げるよう寺社建築技術を「多子相伝」として、海外での技術指導も行い、正しく広く伝えています。

こうした特別な「暗黙知」以外でも、「あの人の技術を覚えたい」「あの営業力のポイントを教えて欲しい」「どのようにあの発想力ができるのか?!」と言った属人化されたノウハウやスキル、知識はどの企業でもあります。
そうした属人化している「暗黙知」を眠らせず、広く求める人へ開放するのがナレッジマネジメントです。

形式知とは
これまでは他者に対して伝承、伝授が困難であった「暗黙知」を誰しもが理解できるよう文章やテキストに落とし込み言語化を進めること。
文章や言語化が難しい「技」などは写真や映像など分かりやすく可視化する。さらに図解したり、表を作成したり、フローで分かりやすくする。マニュアルや手順書を作成するなど客観的な知識です。

SECIモデル
この2つを活用し、新たなステージ、新しい知恵を生み出すフレームワークをSECIモデルと言います。
SECIモデルは4つのプロセスから成り立ちます。
「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」のサイクルを回すことにより、組織全体でナレッジマネジメントを活用できるようになります。

出典:野中郁次郎、紺野登「知識経営のすすめ」を参考に筆者が作成

SECIモデルのフレームワーク 4つのプロセスと場の設置
1.共同化プロセス
共同化は体験や実際の作業を通じて暗黙知を伝達するプロセスです。
見て観察して覚える、一緒にやってみるなど体験を通じ五感を使いながら感覚として暗黙知を学びます。
先輩の営業に同行する、OJT、作業に参加し観察する、昔から言われる「見て盗め」「背中で学べ」など、生の現場体験、感覚を研ぎ澄ます「創発の場」の設置が推奨されます。

2.表出化プロセス
暗黙知を形式に落とし込む作業です。
言葉や図解を用い個人の持つ暗黙知を言語化、可視化し他者と共有できるようにします。
共同化には、写真や映像、比喩、図解、事例、ストーリー、フローなどを使用し、可能な限り分かりやすく言語化していくことが求められます。

なぜ、そのような作業になるのか、ポイントは何か、どうして必要なのか、目的は何なのか。当該社員は案外、無意識に行っている行動もあります。そのため行動を振り返り、非言語の動きを言語化し、理由付けを行いマニュアルや手順書に落とし込みます。
この際、周囲が問いかけを行ったり、言葉で
「~が目的なのですね」
「この手順が入るのは、何故ですか?」
「この作業の目的は○○のためですか?」
など、雑談やブレインストーミングでざっくばらんに話し合えたり、問いかけができる場の設置を行う「対話の場」を作ることで表出化が促進されます。

3.連結化プロセス
連結化は学んだ形式知を他の知識と組み合わせたり、アイディアを創出したり、新たな知識体系を生み出すプロセスです。
2の表出化プロセスで表出されたマニュアルをもとに、更なるマニュアルをチームで作成したり、業務の効率化などに役立てます。

形式知が整理され、個人が持っている形式知を集約する「システムの場」を設置します。SNSや在宅勤務が導入された現在、ZOOMなどの通信技術を活用したコミュニケーションを行うことで連結化が行われやすくなります。

4.内面化プロセス
内面化プロセスは、連結し総合化された形式知を各々が実践し、体得するプロセスです。
マニュアルから学んだ知識を自身の知恵やノウハウ、スキルとして新たな暗黙知が得られるように変化させていきます。

例えば、新しく導入したソフトウエアをマニュアルに頼ることなく操作ができ、さらに工夫も取り入れ、自身の暗黙知を高める。
これまで高度な個別のスキルと認識していた作業が可能になり、更なる創意工夫により新しい作品が生み出される、といった場合は内面化と言えるでしょう。
内面化がなされると、非言語の暗黙知がその人に備わります。
新たに習得し自分のものとしたスキルは、次の世代に対して形式化し、サイクルが循環していきます。

知恵やノウハウ、習得したスキルを自身の暗黙知に起こし込む「実践の場」です。
実際に体験してみることで習得度や背景、意図などの理解が豊かになります。

ナレッジマネジメントの導入

ナレッジマネジメントを導入する際には、しっかり説明を行いましょう。
目的を組織で共有し、メリットがどれほどあるのか、なぜ必要なのか、目標を明確にします。

ポイントをいくつかご紹介します。
・従業員の具体的な希望を収集しましょう。
「誰それの技術を具体的に学びたい」「○○さんの秀でたスキルを是非とも身に付けたい」「ロールモデルの○○上司の技を伝授して欲しい」などの聞き取りを行い、組織に取って必要な情報を収集します。

・情報の共有を公平に行うために、業務プロセスにナレッジマネジメントを組み込み、知的資源を皆が習得できるようにします。

・一度「形式知」にしたものを、個人が吸収、習得し自分のものとなると内面化です。内面化により、学んだ人の中に新たな「暗黙知」が生まれます。組織の中に知的資源が増えていきます。マニュアルは固定にせず、常に新しい知識を循環させていきましょう。

これまでの日本では、終身雇用制度や長期で社員を育てることが一般的でした。
しかし、働き方改革により働き方が多様化しています。
目まぐるしく変化する社会に対応するためには、常に新しい情報をとり入れながら、業務の停滞、属人化を防ぐことが求められます。

ナレッジマネジメントを行うことは、人材を効率よく育成することに繋がります。
また、知識の共有が促進されれば、様々な事象に対応できる従業員が増え、業務効率が上がるでしょう。

常に新しいスキルを身に付けることが可能になると、業務に対するモチベーションが向上し、また組織や企業への信頼感も生まれます。従業員一人ひとりの自己肯定感も高まり、教え合うことで世代間ギャップが埋まる、互いの理解が促進されるなど、コミュニケーションも活性化されます。先輩への信頼感も増し職場における心理的安全性も向上します。

組織力の強化を目指しているリーダーや管理監督者は、こうした経営手法も取り入れてみてはいかがでしょう。

 

参考:野中 郁次郎、紺野 登著
「知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代」ちくま新書

著者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師

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