こころとからだの健康

新入社員の組織社会化、職場への適応を成功させるポイントとは?

<

新入社員を迎え、1か月が経過しました。研修は終えられたでしょうか?
これから配属先が決まる企業、配属がお済みになった企業と様ざまな時期と思います。
今回は、新入社員の組織社会化を促進し、適応と成長を促進する方法について探っていきます。

新入社員の最大の課題「適応」

弊社は新入社員研修を様々な企業様に提供させていただいています。
研修の中で新入社員の「今の不安」をお聞きすると、「職場に馴染めるか」「先輩や同僚とうまくやっていかれるか」「上司とうまくやっていかれるか」「仕事についていかれるか」など、適応に関する不安があると回答される方が散見されます。

入社後、職場に馴染み成果を出すまでには様々なスキルや資質が求められますが、その中でも特に大切なものが、受援力、援助希求行動です。こうしたスキルを身につけることで新入社員の適応を促進することが可能になります。

経済産業省が人生100年時代の社会人基礎力として求められる力に、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力を挙げ、さらに12の構成要素を示しています。
社会人になりたてで、全てが身に付いている新入社員はいません。
それぞれの職種や環境に応じてこうした能力を習得していくことで、社会化が促進され、能力の発揮が可能になります。

受援力とは

受援力とは、困難な状況や逆境に立ち向かうためのレジリエンス力です。
新入社員が職場で成果を出すためには、変化に柔軟に適応し、新たな挑戦を恐れず、例え失敗してもそれをバネとして、ストレスを克服する能力が不可欠になります。
受援力を身につけることで、困難に出遭ったときに自分の強みや弱みを理解し、その場に応じた適切なサポートや助言を受け入れることが可能になります。

受援力を高めるには

受援力を高め、社会人基礎力を向上させるためには以下のポイントに注意することが大切です。

◆人的資源を増やす
受援力を高めるためには、自身のサポーターになる人的資源のつながりを見つけることが大切です。「チームワークで働く力」の向上のためには、社内における縦横斜めの関係はもちろん、社外の人間にも積極的に関わり、課題に応じた人的資源を増やします。

◆思考のクセに気付く
「考え抜く力」の構成要素「課題発見力」や「前に踏み出す力」の構成要素である「実行力」の向上を目指します。
誰しもが直面する失敗や困難ですが、柔軟な思考や前向きな考えを持ち、解決策を見つけるための努力を惜しまないことが大切です。
思考は気分や感情に影響を与えますから、自己理解を深め、自分にはどのような思考のクセがあるのか理解し、物ごとの受け止め方、考え方の柔軟性が高まるよう修正していきます。

◆自己管理能力を高める
「チームワークで働く力」の構成要素の一つに「ストレスコントロール力」が含まれます。
労働者には、自分の健康は自分で守る「自己保健義務」が課せられていますから、メンタルヘルス対策のセルフケアは最初に学ぶべきスキルと言えるでしょう。
生活リズムを整え、ストレス耐性を高め、ストレスを溜め込まないよう「3つのR※」を積極的に取り入れ、負けない体づくりをめざしましょう。

ストレスに晒されたとき、役に立つストレス対処法に「マインドフルネス」があります。
瞑想を取り入れたマインドフルネスは、ストレス・コーピングに用いられ、世界的に脚光を浴びており、認知療法、認知行動療法に次いで第三世代の認知行動療法とされています。
地域医療基盤開発推進研究事業の研究報告によると、マインドフルネスを活用し、メタ認知的対処を行うことで、情動制御や副交感神経活動の亢進といった健康増進につながる効果が解明されています。

※「3つのR」とは、レクリエーション(Recreation)、レスト(Rest)、リラックス(Relax)のことを指します。

援助希求行動とは

援助希求行動とは、自らが困難を乗り越えるために他者の支援を求める能力です。
新入社員が職場で成長するためには、周囲の人々と協力し、サポートを受けることが不可欠です。援助希求行動を促進するためには、以下のポイントに注目することが重要です。

コミュニケーション力の向上
「チームで働くチカラ」の構成要素「発信力」「傾聴力」「前に踏み出す力」の構成要素「働きかけ力」はまさにコミュニケーションスキルです。
新入社員にとり、年代の違う人やこれまで出会ったことのないタイプの人との対話は、抵抗感や戸惑いを持ち、自身のコミュニケーションに不安を感じている方も少なくありません。

コミュニケーションスキルは、外向や内向といった性格には関係なく向上することが可能と言われています。社内において、コミュニケーションの機会を設け、多くの体験を後押しすることも大切です。また、進んで上司が声掛けを行いましょう。

声掛けの際には、ネームコーリング効果を活用します。
「○○さん、おはようございます。」「○○さん、お疲れさまでした。」
人は意識せずとも自分の名前を大切にしています。名前を呼ぶことは、その人の存在を認め、承認する行為です。組織の中において孤立感や孤独感を抱いてしまうことのないよう、所属欲求(「自分はここにいて良いのだ」「このチームに必要な存在だ」など)や承認欲求(「上司や先輩は自分を覚えてくれている」「自分のことを気かけてくれている」「上司が労ってくれた」「努力を評価してくれた」など)を満たす言葉かけを心がけましょう。

苦手意識を克服し、自身に合ったコミュニケーションスタイルを身につけることで、つながりが増え、他者に対する信頼関係の構築や組織とのつながり、所属欲求も満たされるでしょう。
(参考:部下育成に心理学を応用する Part2. https://www.safetynet.co.jp/column/211101/

サポートを受ける
新入社員からのご相談に、「困ったときに、誰に、どのタイミングで、どのように相談をしたら良いのか分からない」という声をお聞きすることがあります。

在宅勤務が当たり前となり、先輩や上司の姿は見えません。中間管理職である上司はプレイングマネージャーであり、常に忙しそうです。
援助希求行動を起こそうとしても、新入社員にはこれまで経験がなく、ノウハウがない状況です。
「誰に」「何を」「いつ」「どのように」など職場の人的資源を伝え、新入社員を支えましょう。

自己開示能力とは

臨床心理学者のシドニー・ジュラ―ド氏が「言語という手段を用いて他者に自分のありのままを開示すること」と提唱しました。
自分自身に関する情報、例えば考え方、感情、プライベートな経験などを言葉によって相手に伝える行為です。

「自分は課題に直面しています」「分からないことがあります」「自分なりに努力はしたけれど、次の一歩が見つかりません」と言った自分の置かれた状況を開示する力を身につけることで、初めて援助が受けられます。

自己開示の機能と効果

◆個人的機能
カタルシス効果
カタルシス効果と呼ばれる感情浄化の機能は、多くの人が経験しているのではないでしょうか。嫌な出来事を体験した際、不満や不安の感情を打ち明けたことで「ホッとした」「聴いてもらえて安心した」などの効果を指します。

②自己明確化機能
自分の思いを言語化し、人に話すことで気持ちが次第に整理され、明確化していく自己明確化機能があります。何となく整理がつかずにモヤモヤしている感情を人に伝えようとすることで、客観的視点が生まれます。

③社会的妥当性化機能
聞き手からの評価や意見を聞くことで、自分の意見や考え方は社会的に妥当性があるかが分かる社会的妥当性化機能です
自分では「そうに違いない」「ほとんどの人がそう思っているのでは?」と言った思い込みも、聞き手の意見により、自分の考えがマイノリティだったと気づいたり、社会一般の平均と一致していると安心したり、と再評価することができます。

◆対人的機能
①二者関係の発展機能
自己開示をされた相手は、自分への信頼を感じ、話し手に対して好感を覚える心理があります。「実はね…」「こんな経験をしたことがあるの」などの打ち明け話により、ニ者関係が深まることや、返報性の心理から、聞き手も同程度の自己開示を行うこともあります。

②社会コントロール機能
話し手が、「あなただけに話す」「ここだけの話…」「誰にも言ったことがないのだけれど」など個人的な話題であることを強調した場合、二人の関係の質がコントロールできる機能です。

③親密感の調整機能
自己開示の内容を深めたり、減少させたり増加させることで親密感の調整機能が働きます。例えば、これまでプライベートな話題は自分だけに打ち明けられていたと信じていた聴き手が、ある日、話し手が別の相手に打ち明けたとします。これまで感じていた親密度は減少し、親密感の調整機能として働きます。

自己開示のメリットとデメリット

自己開示は、他者に対して自分のプライベートな出来事や感情、考えを打ち明ける行為です。相手を選ばす、何でもかんでも、いつでもどこでも開示すればよいということではありません。

内容の質の深さによっては、聞き手は警戒したり、抵抗を示すこともあるでしょう。
自己開示をするには、開示する頻度、時間などの量や、内面の質的な側面を吟味する必要があります。
自己開示は、それまで築いてきた関係性、親密性、相手の立場などを検討し、不適切な自己開示にならぬよう、気を付ける必要があります。知り合ったばかりで親密性が低く、尚且つ聞き手の心の準備ができていない状況での自己開示は「非常識な人」「なぜ自分が選ばれたのだろう?」といった不信感や不快な印象を与えたり、ときに不安にさせてしまうこともあります。

一方で、自己開示がある程度必要な場面においては、自分の感情や思い、経験を他者に伝えることは大切な行為です。
ハラスメントの被害にあったり、職業生活において嫌な思いをした時には社内相談窓口、上司など、適切な聞き手を選び、カタルシス効果や気持ちの整理、社会的妥当化を促進することは、大きな助けになります。

新入社員の組織社会化を促進するために、こうした受援力、援助希求行動、自己開示などの大切なスキルをセルフケア研修などにも取り入れ、適応をサポートなさることが肝要です。

 

筆者:セーフティネット産業カウンセラー、公認心理師

資料ダウンロード全27ページパワハラ防止法に対応!体制づくりに役立つ資料を無料進呈資料ダウンロード全27ページパワハラ防止法に対応!体制づくりに役立つ資料を無料進呈