こころとからだの健康
ガーデニングとこころの健康

ガーデニングは日頃の生活ではなかなか得られない素敵な体験をさせてくれます。
今回はメンタルケアの一つとして、“ガーデニングが教えてくれること”や、“具体的に始めるにはどうすればいいのか”についてお話をしていきたいと思います。
ガーデニングが教えてくれること
近年、ガーデニングはメンタルケアの一つとして注目されています。じかに土や植物と触れ合うことで、鬱や不安症状、ストレスなどが低減するとされ、さらに生活満足度や生活の質の向上、肥満の防止、心身の健康に役立つことなど、その効果が明らかになってきました。
中でも英国では、園芸が生活の文化として根付いており、人々を支えてきました。ガーデニングの活用の範囲は広く、医療や介護、教育、刑務所などで、園芸療法(ガーデンセラピー)としても応用されています。
インターネットで「ガーデニング 健康」「ガーデニング 効果」などと調べると様々な記述を見ることができますが、今回は筆者個人の視点からガーデニングを再考してみたいと思います。
ガーデニングを語るうえで、今回は、どのような“効果”があるのかではなく、ガーデニングを通して“何に気づけるか”、“何を学べるか”についてお伝えしたいと思います。
物事は思い通りにならない
ガーデニングは“人が生きていく上で大切なこと”を教えてくれます。
一つ目は、「物事は思い通りにはならない」ということです。種を植えた直後は「早く芽が出ないかな」、「早く綺麗なお花を見たいな」と思いますが、芽はそんなにすぐに出てくれません。芽が出た後もお花が咲くまでは、水遣りをしたり、肥料を与えたり、病気や虫の予防をしたりと、さまざまなケアをしながら大きくなるのを見守らなければいけません。
植物は時間をかけ、ゆっくりゆっくりと成長していきます。その成長過程はもどかしく感じる時さえあります。しかし、我々が前のめりに焦ったとしても、植物の成長速度が早くなるわけではないのです。
また、ようやく咲いてくれた綺麗なお花を「やっと咲いた!ずっと見ていたい」、「その姿のままでいてほしい」と願う気持ちが湧くこともあります。そのお花に愛情を感じ、大切にしていたらなおさらです。しかし、それは実現しません。残酷ではありますが、綺麗に咲いた花もいつかは必ず枯れてしまいます。
こうした過程は、“人が生きることと似ている”と思いませんか。
人生は中々思い通りにはなりません。なりたいものになれるわけでもないし、欲しいものがすべて手に入ることもありません。また、やりたいと願ったことがすべてできるということもないでしょう。
自分を変えようと思っても上手に変わることができないように、自然の大きな流れの中で“なるようになる”としかいえないこともあるでしょう。変化をさせるというよりも、気づくと変化していた、という側面も大きいように思います。
物事は移ろう
二つ目は、物事は移ろうということです。永遠に咲き続けるお花はありません。つぼみが出来て、やがてそれが咲き、満開となります。その姿はとても綺麗で、見ているだけで時間を忘れそうになります。けれども、美しく咲き誇ったお花でも、数日も経てば、色はくすみ、張りもなくなっていきます。やがては萎んでいき、最後に花弁は散ってしまいます。その経過を見ている我々の気持ちも同じです。つぼみを見てワクワクし、お花を見て幸福感を得、そして萎れていく様子を見て切なさを感じ、枯れてしまうと寂しくなることでしょう。
一方で、枯れてしまったお花は、実は花弁が落ちてもその陰で種を作っているかもしれません。その種が地面に落ちたり、風に乗って飛ばされたりすると、またそこから芽が出て、新たにお花を咲かせてくれることもあるでしょう。枯れてお仕舞いと思った植物から、次の花芽が上がり、その花芽はやがて綺麗なお花を咲かせることもあります。そうした植物の生命力はまた私たちに新たな感動を与えてくれます。そして、その感動は始めに枯れてしまったお花への悲しみを癒してくれるかもしれません。
人も歳をとれば、肉体は成長し大人になります。さらに歳を取ることで変化を重ね、やがては老いていきます。成長の過程においては、進学や就職、転職や転勤などで生活環境も変わっていきます。家族、恋人、友人、同僚などの人間関係も年齢とともに変化するでしょう。
環境だけではなく、人の考えや気持ちも変化します。幸せな気分はずっと続いてほしいと思いますが、気分や感情は移ろい、ときには嫌な気持ちになることもあります。反対に、どうにもならないほどの辛い絶望感は永遠に続く気がする一方で、気分や感情がいつかは変わるものというのがわかります。
物事はつながっている
三つ目は、物事はつながっているということです。植物は虫や動物が生きていく上での大切な栄養素にもなります。蝶がお花の蜜を吸ったり、芋虫が葉っぱを食べたり、時に根切り虫に根っこを食べられたり。植物は、綺麗なお花で楽しませてくれる以外にも、様々な生物の命を支えていることがわかります。
植物は与えるだけではなく、虫たちからも助けられています。蜜を求める虫が飛び回ることで受粉が促され、種が遠くに運ばれ生息範囲が広げられます。動物の糞が植物の肥料になることもあるでしょう。
このように植物自体も周囲の環境に支えられているのです。
周囲に支えられていることは、人においても同様です。
我々はもともとコンマ2ミリの受精卵でした。そんなに小さかった物体が数十年過ぎると、大きく成長し体重が50~60kgになったりします。この質量を支えてきたのは食べ物です。お米やお肉、野菜やくだもの、さまざまな食材が私たちの肉体を作ってきました。そして、その食べ物になった植物や動物も各々何かから栄養もらって大きくなったものです。そのようなことに気がつくと「人は大いなる自然の連鎖の一部なのだな」と実感することができます。
私たちが今この瞬間に見ているものは、複雑な要因が絡まった連鎖の中のひとときの姿であるというのがわかります。それを踏まえると、なんだか過去や未来に思いを馳せているのはもったいないような気がしてきます。なぜなら、今この瞬間を意識しなければ、今しか見れないものを見落としてしまうのですから。

ガーデニングのすすめ
ガーデニングは日頃の生活では気づきにくい“人が生きていく上で大切なこと”を教えてくれます。知識としてというよりも、肌感覚として“理解”することができるのです。このことは、とても素敵な体験になります。
スタートするなら
さて、ガーデニングをするなら、何からスタートすればいいのでしょうか。
まずは植物の種類を知りましょう。植物は大きく分けると、何年にも渡って花を咲かせる多年草と1シーズンのみ咲く一年草に分類されます。気軽にチャレンジできるものとして、一年草を育てるのがおすすめです。
また、植物にはそれぞれに得意な季節があり、開花する時期で大きく二つに区別することができます。
暑いのが得意で春から秋に咲くお花と、寒いのが得意で秋から春に咲くお花があります。どちらも個性豊かで素敵なお花が多いですが、これからの季節であれば秋から育てる植物ですね。
実は、秋はガーデニングを始める季節として最も適した時期なのです。お花といえば“春”というイメージを持っている方も多いかもしれないですが、春に咲かせるためには事前の準備が必要です。また、春から夏にかけては虫が発生しやすいので、食害にあってしまう可能性もありますが、寒い時期はあまり虫が発生しませんので育てやすいのです。加えて、水遣りも暑い時期は時間帯など気を使いますが、寒い時期であればそこまで神経質になる必要もありません。
そこで、一年草かつ秋から育てる寒い時期が得意なお花としてあげられるのが、パンジーとビオラです。ガーデニング初心者におススメしたいお花の代表格といえます。
パンジーとビオラは開花時期も長く、色も花の形も様々なので、この種類だけでもバリエーション豊かに楽しむことができるでしょう。一つの鉢に一株を植えることが基本ですが、大きめの鉢やプランターに複数の株を植える“寄せ植え”も素敵ですね。青や紫の色の組み合わせや黄色やオレンジの組み合わせなど、色合わせ次第で、まったく違った雰囲気になりますので、ご自身の好きな組み合わせを選んでお花が咲くのを待つ、それも楽しみです。

今回はガーデニングをすることで得られる体験と、その始め方についてお話をしてきました。ガーデニングはお庭が無くても、ベランダの一角で植木鉢一つから始めることができます。メンタルケアの一つとして、これを機にぜひ始めてみてはいかがでしょうか。
筆者:パソナセーフティネット 臨床心理士、公認心理師