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変わりゆく労働市場:労働力減少を乗り越える多様性の力

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厚生労働省は、6月4日に2024年の「合計特殊出生率」が前の年から0.05ポイント下がって「1.15」と公表しました。政府は少子化対策として、育児支援の充実、働き方改革、保育所不足の解消、少子化対策基本法の制定など、様々な施策を講じています。

なぜ、出産数が減少しているのでしょう

急速な少子化に歯止めがかからず
厚生労働省によりますと、2024年に国内で生まれた日本人の子どもは686,061人で初めて70万人を下回り、1899年以降で過去最少になりました。

出生率と合計特殊出生率について
ここで、「出生率」と「合計特殊出生率」について解説を行います。

出生率とは、人口1,000人に対する1年間の出生数割合を示す数値のことで、普通出生率とも言います。
少子化に加速が進む日本で注目されているのが、「合計特殊出生率」です。合計特殊出生率とは、15歳から49歳までの年齢別出生率を合計したもので、一人の女性が一生のうちに何人の子どもを産むかを図るための指標になります。

出生率には人口を維持するための数値があります。この数値と実際の数値を照らし合わせることで少子化の判断ができ、人口が増加するのか、減少してしまうのかが予測できます。

世界の中の日本の動向は?
「The World Factbook」のデータによると、2025年の合計特殊出生率のランキングでは、先進国のG7を抜き出すと最も高いのがフランスの1.9です。次いでアメリカの1.84、3位はイギリスの1.63で、日本は6位1.4でした。

G7ではどの国も2.0を下回っており、少子化や人口減少は喫緊の課題となっています。

隣国の韓国は、2024年度 OECD加盟国の中で唯一1.0を割り込み緊急対策を実施し2025年度1.12となりましたが以前低い状況は続いています。
台湾は1.11と更に低い数値でいずれの国も人口減少や少子化問題を抱えていることが分かりました。

日本の合計特殊出生率が低下している原因とは
日本の出生率は度重なる記録更新を経て、2025年、過去最低を更新しました。低出生率の背景には、「晩婚化」「非婚化」「晩産化」があります。
その要因にはどのようなことが挙げられるでしょう。

① 晩婚化
2022年度の内閣府調査によると、初婚年齢は男性が31.1歳、女性29.7歳と1970年代と比べると約4年上昇しています。
結婚年齢が後ろ倒しになったことで第1子出産年齢も遅くなり1970年代には25.6歳でしたが、2022年には30.9歳と約5年上昇しています。
初婚年齢の上昇は、女性の高学歴化や社会進出の増加などが要因と言われています。

② 非婚化
女性のライフスタイルは大きく変化しました。20代後半の女性の労働力率は1970年には45.5%でしたが、2022年には86.9%になりました。結婚に対する価値観の変化などにより結婚を選択する人の減少があります。

③ 経済的不安
物価上昇による育児費用の高騰、所得の低迷などによる経済的負担の増加により、子どもは欲しいけれど経済的に立ち行かないと控える層の増加。

④ 社会的要因
制度は徐々に整ってきたとはいえ、現実は男性の長時間労働が続いており、男性の育児参加が進まず、女性の育児負担の軽減に至りません。
周囲をおもんばかり、制度の利用を心理的に控える男性もおり、また業務の忙しさ、交代要員の不足など社会的要因があるようです。

死亡者数の増加は過去最多
出生数が過去最少となる一方で、去年1年間に死亡した人の数は前の年からおよそ3万人増え160万5,298人で、過去最多となりました。

その結果、死亡した人から生まれた子どもの数を差し引いた人口の減少幅は91万9,237人で過去最大となり、人口の減少が加速しています。
厚労省は「急速な少子化に歯止めはかかっておらず、危機的な状況は変わらない」としています。

死亡者数の増加と死亡要因
2025年には団塊の世代が75歳以上の高齢者となります。日本における年代別の人口比は、65歳以上人口が3,624万3千人であり、29.3%となり過去最高です。

75歳以上人口は2,077万7千人で70万人の増加となり16.8%でこちらも過去最高となり、高齢化が進んでいます。(2024年10月)

15歳未満の人口の割合が75歳以上人口を上回っているのは、沖縄県のみで、その他の都道府県では高齢者が上回っています。

2070年には約4人に1人が75歳以上になると推計され、超高齢化社会がますます本格化してきます。高齢化社会になることで、死亡者数は今後も増加する傾向が見込まれます。

日本の人口分布
2020年の人口分布です。(令和6年版男女共同参画白書より)
女性就業者が増加する一方、就業者全体が高齢化。また、非就業の高齢者も増加しています。

平均寿命の延伸により、60代以降の人口は男女ともに多く、就業している人も増加しましたが、非就業者人口も70歳を境に多くみられます。

男女高齢者の一人一人の希望に応じ、自らの個性と能力を発揮する働き方を見つけることで、社会参加は可能になるのではと思います。そのためには健康維持・増進が重要な課題となるでしょう。

(令和6年版男女共同参画白書)

女性の職場での活躍の促進を目指して

女性が社会で活躍するには、女性特有の健康課題への理解が大切になります。
女性特有の病気は20代から50代の働く世代に多くみられます。

(令和6年版男女共同参画白書)

気になる症状への対処法として「休暇・休憩をとる」「市販の薬やサプリメント等を飲む」「病院等に行く」を挙げる割合は高いものの、「特に対処していない」とする割合も3~4割おられることが調査から明らかになっています。

正規雇用女性労働者の対処ができない理由として挙げているのが、
「仕事や家事・育児等で忙しく病院等に行く時間がない」
「病院が空いている時間に行けない」
と、自身の気になる症状に対するケアを後回しにしている現実があります。

職場に求めるサポートとして、20~39歳女性では、「生理休暇を取得しやすい環境」「出産・子育てと仕事の両立支援」を挙げ、
40~69歳女性では、「病気の治療と仕事の両立支援」「更年期障害支援」「介護と仕事の両立支援」を職場に求める割合が高い結果となりました。

早期発見のための健康診断、不調を感じたときに相談できる窓口の設置、女性の健康課題に対する教育や啓蒙活動などの充実を図ることが企業に求められます。

高齢者の職場での活躍の促進、アクティブシニアを目指して

アクティブシニアとは
主に65歳から75歳くらいまでの前期高齢者を指しています。

特徴は、
・行動的で生き生きしている
・金銭的な余裕があり、仕事や趣味に対して意欲的かつ積極的
・生活基盤が安定し、自己実現欲求がある

経済産業省が公表したデータによると、「働けるうちはいつまでも働きたい」と考える高齢者が30%を超える(60歳以上の有職者)という調査結果もあります。
健康を維持し活発に社会活動を行う高齢者をアクティブシニアと称し、こうした高齢者の積極的な社会参加の促進も労働人口を支えるでしょう。

40歳から69歳の管理職に働く条件について調査した結果では、以下のような回答が寄せられています。

                        (令和6年版男女共同参画白書)

40代を超えると介護ケアも視野に入ってきます。こうした調査結果もご参考にしていただければと思います。

アクティブシニアの健康課題
先に女性の健康課題も挙げましたが、男性特有の健康課題も高齢化とともに増加します。
高齢化とともにリスクが高くなるのは、前立腺肥大が挙げられます。
排尿障害を感じられた際には早めの受診が必要です。


男女ともにアクティブシニアとして活躍するためのポイント
フィジカル面について
①「自分はまだまだ若いつもり」「若い者には負けない」といった価値観の見直し、マインドセット※1をする
②加齢による心身の機能低下に対し正しい理解を持つこと
③加齢による身体的変化、リスクに対応できる対処法を身に付ける
④フレイル※2予防を行う
※1マインドセットとは、個人の心の持ち方、考え方、物事の捉え方を指し、無意識の思考パターンや固定観念を意味する言葉。
※2フレイル(虚弱)とは、加齢によって心身の活力(筋力や認知機能など)が低下し、健康と要介護の中間状態にあることを指します。

低出生率と労働人口の減少は、単一の解決策で克服できる問題ではありません。社会全体の価値観の変化と政策の積極的な推進が求められる中、多様性を受け入れ、新たな働き方を開拓することが求められます。
組織においては、性別を問わず全世代が共に支え合う社会を実現していくべきと思います。

 

筆者:パソナセーフティネット産業カウンセラー、公認心理師

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